大船渡の国保監督(右)が県大会決勝で佐々木(左)に登板回避させたことが話題となった (c)朝日新聞社
大船渡の国保監督(右)が県大会決勝で佐々木(左)に登板回避させたことが話題となった (c)朝日新聞社

 今年もまた高校野球の季節がやってきた。そしてこの時期になると決まって議論になる話題がある。高校生への球数制限を義務化すべきか否かだ。特に今年は球速160キロオーバーを出す逸材として注目された大船渡(岩手)の佐々木朗希投手が決勝戦の登板を回避し、結果として大船渡が敗れたことで騒動は日本全国はもちろん、アメリカにまで飛び火している。

 ではそのアメリカでは、投球制限はどのように扱われているのだろうか。結論から言うと、日本とは比較にならないレベルで厳格に制度化されているのだ。

 アメリカではメジャーリーグ機構と米国野球連盟が各年代ごとに投球数の上限を示したガイドラインを出している。これは選手に対してだけでなく、指導者や親なども対象にした啓蒙運動でもある。

『Pitch Smart』と呼ばれるこのガイドラインによると、8歳以下ならば1日の最大投球数は50球まで。9歳から10歳は75球、11歳から12歳は85球、13歳から16歳は95球、17歳から18歳は105球、19歳から22歳は120球といった具合に細かく示されている。

 しかもこの球数上限は投手の登板間隔とリンクしており、例えば高校生世代にあたる17歳から18歳の場合、81球以上を投げたなら次の登板は5日後(つまり中4日)にしなければならない。61球から80球の場合は中3日、46球から60球なら中2日、31球から45球なら中1日、30球までなら連投可能とされている。

 かつての日本球界では「肩は投げ込みで作り込むもの」という風潮が強かった一方で、アメリカでは「肩は消耗品」という文化が根付いている。特に身体が出来上がっていない少年世代への負担は可能な限り抑えるのが議論の余地なく常識となっている。その目線で日本の高校野球を見た場合、あえて極論を言えば児童虐待として映っている可能性もあながち否定できないかもしれない。

 もっとも、日本とアメリカの高校野球世代では大会のありようが全く違うという事実も忘れてはならない。アメリカには甲子園のような全国レベルの大会はなく、州レベルの大会が最大のもの。しかも基本的にはリーグ戦で行われるため、負けたら全てが終わりという日本のようなプレッシャーはあまり感じずに済むことからエース投手を早めに交代させやすい。

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指導者を解放するためにも