苦労して撮影した写真は、やはり一人でも多くの人に見てもらいたいもの。今や、インスタグラムやツイッターなどのSNSで発表することが容易な時代だ。その一方で、ネット上に載せた写真を無断で使用する人が後を立たず、こちらも大きな社会問題となっている。

『写真好きのための法律&マナー(アサヒオリジナル)』でも、自分の写真が無断使用された人の体験談や、削除要請や損害賠償請求といった対応策について何度も取り上げてきた。その中で、100点以上の損害賠償請求実績を持つ夜景写真家の岩崎拓哉さんをアドバイザーに迎え、実経験に基づいた実践的な対応策を特集したこともある。

 その岩崎さんが今年5月、そうしたノウハウを一冊にまとめた『クリエイター必携 ネットの権利トラブル解決の極意』(秀和システム)を刊行し、無断使用に悩むクリエイターたちの間で注目を集めている。

「著作権に関する書籍は何冊も出ていますが、『侵害しないため』の予防に特化されてきました。そこで、『侵害されたらどうする』に特化した本の必要性を感じたのです。ネット上の著作権トラブルは著作権法だけでなく、インターネットの知識も必要。両方の知識を体系的に学べるような内容にしました」(岩崎さん)

 全5章の本書では、無断転載画像の探し方、交渉相手の特定方法、プロバイダへの発信者情報開示請求の方法、実践的な交渉方法、内容証明郵便の書き方、簡易裁判所での本人訴訟手続きまでの一連の流れについて具体的に説明し、訴状などのサンプル文書もダウンロードできる。無断使用されたクリエイターにとっては、力強い味方となってくれそうだ。

 2016年末のDeNAが運営する医療情報キュレーションサイト「WELQ」騒動がきっかけで、ネット上の著作権への関心が高まるようになったが、依然として無断使用は横行し、泣き寝入りしている写真家やイラストレーター、クリエイターは少なくない。なぜこのようなことが未だに横行してしまうのだろうか。

「インターネットやSNSがこれだけ普及しているにもかかわらず、著作権教育を受ける機会が少ないのが理由の一つではないでしょうか。故意に無断使用を行っている人は、匿名でサイトを運営し、極力身元をばれないようにしていることが多く、『注意されたら削除すればいいだろう』くらいにしか考えていないと思われます。また、弁護士に交渉や内容証明郵便を依頼するなどして行動に移したとしても、『たかがネット上の画像の無断使用くらいで訴えてはこないはず』と開き直り、無視する加害者も少なくありません。高性能なカメラやスマートフォンで、きれいな写真が誰でも手軽に撮影できる時代ゆえ、世の中全体が写真の価値を感じづらくなっているのかもしれません」(同)

(文・吉川明子)