捕手はチームの頭脳であり、監督としても優れている。その印象を植え付けたのは間違いなく野村の功績によるところが大きい。解説者時代には当時画期的だったストライクゾーンを9分割した『野村スコープ』を用いて配球を語り、ヤクルト監督就任後はデータを活用した『ID(important data)野球』で黄金時代を築いた。それ以前にも阪急で日本シリーズ3連覇を達成した上田利治、西武で8度のリーグ優勝と6度の日本一に輝いた森祇晶などが捕手出身の名監督として活躍している。近年では近鉄、日本ハムの2球団でリーグ優勝を経験した梨田や西武を日本一に導いた伊東勤なども成功例と言えるだろう。

 しかし、ここ数年の傾向を見ると、捕手出身の監督は意外なほど成功していない。例を挙げると下記のような監督となるだろう。

達川光男(広島):1999年~2000年(通算122勝148敗・最高成績5位)
古田敦也(ヤクルト):2006年~2007年(通算130勝157敗・最高成績3位)
大矢明彦(横浜):1996年~1997年・2007年~2009年途中(通算259勝328敗・最高成績2位)
谷繁元信(中日):2014年~2016年途中(通算171勝208敗・最高成績4位)
大久保博元(楽天):2014年途中(監督代行)~2015年(通算65勝92敗・最高成績6位)

 特に古田、谷繁の二人はチームの黄金時代を築いた正捕手ということでファンからの期待も大きかったが、目ぼしい結果を残すことなく短期間でチームを去ることとなった。今シーズン、同じような立場で就任したのが阪神の矢野監督である。まだ結果をどうこう言う時期ではないが、序盤の戦いぶりを見ていると楽観できるような状態ではないだろう。

 では、かつては捕手出身の監督が隆盛を誇っていたのが、現在では名監督が生まれないと言われた外野手出身の監督が結果を残している、その理由はどこにあるのだろうか。まず一つ目の要因はどのチームもデータの活用が当たり前になり、そのことによるアドバンテージが小さくなったということである。『野村スコープ』として紹介されたストライクゾーンを9分割したものは今ではごくごく一般化されたものになっており、コースごとや球種ごとの打率まで誰でも調べることが可能である。そして捕手という目線から培ってきた野村の配球に重きを置いた手法は、他のポジションの選手であっても当然のように触れるものになっているのだ。

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監督の役割が変わって求められるものも変化