一方、一芸に秀でた選手として注目したのが沼上仁哉(函館大・捕手)、宇草孔基(法政大・外野手)、山形堅心(創価大・一塁手)の三人だ。沼上の持ち味はその強肩。捕球してから素早く持ち替えて強いボールを投げることができ、低い軌道でセカンドベース付近まで勢いが落ちない。2.0秒を切れば強肩と言われるセカンド送球で、度々1.8秒台をマークした。フットワークとキャッチングを磨けば、ディフェンス型の捕手として大成する可能性があるだろう。宇草は東京六大学が誇るスピードスター。今年の春まではわずかにリーグ戦通算3安打だったが、この秋は1番に定着して19安打、2本塁打、6盗塁とブレイクした。今大会は初戦で環太平洋大に敗れて最後の打者になったものの、2打席目で放った内野安打では一塁到達3.82秒をマークして存在感を見せた。山形もこの秋にブレイクした選手。明徳義塾時代は控え選手だったが、大学でその長打力に磨きをかけて中軸の座をつかんだ。タイミングをとる動きに少し無駄があり確実性には課題が残るものの、とらえた時の打球の迫力は圧倒的。神宮大会の出場をかけた関東大学選手権では4試合で3本塁打を放ち、今大会でも打った瞬間にホームランと分かる打球をレフト中段へ叩き込んだ。貴重な右の大砲候補として今後も追いかけたい素材である。

 最後にドラフトで指名された4年生のプレーぶりにも少し触れたい。広島から2位指名を受けた島内颯太郎(九州共立大)は初戦の立正大戦に先発し、7回にツーランを浴びて負け投手になったものの、最速150キロをマークして持ち味のスピードを見せつけた。変化球のキレ、精度には課題が残るものの、先輩である大瀬良大地とよく雰囲気の似たフォームで、将来のローテーション候補として期待がかかる。

 見事に9年ぶり2回目の優勝を飾った立正大は、3番の小郷裕哉(外野手・楽天7位)、4番の伊藤裕季也(二塁手・DeNA2位)のプロ入りするコンビがチームを牽引する原動力となった。小郷は持ち味のミート力の高さをいかんなく発揮して広角に打ち分け、3試合で8打数4安打の活躍。ライトから見せる強肩と走塁のスピードでも存在感を示した。そしてMVP級の働きを見せたのが伊藤だ。初戦では島内から決勝ツーラン、決勝戦では自らのエラーでリードを許しながらも8回に試合をひっくり返すツーランを放ってミスを帳消しにして見せた。力みなくゆったりとタイミングをとって強烈に引っ張るバッティングは迫力十分。プロの変化球に対応できるようになれば、近い将来中軸を打てる可能性も秘めているだろう。

 アマチュア野球の主要な公式戦はこれで幕を閉じることになる。今年も多くのスター選手が誕生し、甲子園、神宮球場、東京ドームなどを沸かせた。これからオフに入るが、来年も各カテゴリーで新たなスターが誕生することを期待したい。

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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