この美道を礎に、山野学苑が20年も前から取り組んできたのが「美容福祉」であり、その教育の一環としていち早く取り入れているのが「ジェロントロジー」という学問だ。美容福祉は、理美容室に来店する高齢者や障がいを持つ人たちへの適切なサポートや、病院や福祉施設といった理美容室以外で施術をする訪問理美容などを行うこと。またジェロントロジーは、老化現象を多角的に研究し、多岐にわたる分野と連携しながら「老いと生き方」について追究する先進の学問である。
「これは父が取り組み始めたものですが、人生100年時代といわれる今、どちらもたいへん重要です。実際、私も寝たきりのおばあさんにメイクをさせていただいたとき、パッと笑顔になったことを目にして、本当にうれしく思いました」
高齢の方が髪を整えたり、お化粧をすることで、笑顔が増えたり、行動的になった例はたくさんある。「長寿」より「健康寿命」が重視されている昨今、山野家が追求してきた美容は身だしなみや美を全うする以上の役割を果たし始めている。
「誰にも老いは必ず訪れますが、誰もが長く、元気でハッピーに生きることを願っているはず。女性ならいつまでも美しくありたいと思うでしょう。その意欲が生きる力になるはずですし、そのために『美容』ができることはとても大きいと実感しています。それはまさに美道の追究と同じことなんです」
(文/近藤美樹子)