田中教授は自身の専門である投票行動、選挙分析を活用したといえるかもしれない。SNSを盛んに活用し、新しい風を吹かせて自由闊達な雰囲気をつくる、選挙が終われば「ノーサイド」で対立候補応援者を尊重し遺恨を残さない、「ラブ治半端ないって」というタイムリーなキャッチまで取り込んでしまう、など。なお、再投票の対立候補、島田教授はツイッターをしていなかった。

 総長が代わって早稲田は変わるだろうか。現在、鎌田薫総長は長期計画として「WASEDA VISION 150」を掲げている(大学創立150年を迎える2032年まで、学部学生を減らし大学院生を増やす。女子学生、外国人留学生を増やす。授業の半分は英語にするなど)。

 田中教授は総長選のさなか、「将来計画書」のなかで、「WASEDA VISION 150」を「今や数値が一人歩きをしています。目標の理由を明確にしたNext Stage へと進化させます」と記している。

 具体的にはこんな計画を立てている。

「早稲田の全学生が在学中に一度は海外に出て、外から日本を見る環境を整えます」「教員が研究に集中できるように、不必要な会議を減らして、研究時間を確保します」(「将来計画書」)

 さらに、田中教授は大胆な構想を抱いている。

「『世界で輝くWASEDA』を実現するためには、生命医科学の研究・教育を抜本的に拡充する必要があります。新たに医学部を本学が増設することは全国医学部長病院長会議の承認が必要なため、ほぼ不可能と言われています。したがって、実行可能性を見極めつつも、単科医科大学を吸収合併する戦略に絞って考えていく必要があります」(「将来計画書」)。

 医科大学を買収し、早稲田大学医学部をつくりたいのだ。

 田中教授には『2009年、なぜ政権交代だったのか』という共著書がある(勁草書房)。2018年、なぜ早稲田大学政権交代だったのか――。早稲田がドラスティックに変わるのであれば、日本の大学教育に一石も二石も投じることになる。

 田中愛治新総長には、日本の大学をおもしろくしてほしい。

(文・小林哲夫/教育ジャーナリスト)