彼女は何も知らずに家に来てくれましたが、電気もガスも止められたオレの家に来て、すぐに状況を察して、弁当を買って来てくれました。しかも最後の別れ際は金まで渡してくれてね。オレ、そのときのことはいまでも鮮明に覚えています。オレが着ていたのが黄色いチェックのシャツ。その胸ポケットに彼女が2000円を入れてくれました。そのとき、オレは心底「ラッキー!」って思った。

 情けないとかみっともないとか、そんな感情はまったくなかったです。自尊心の下にある美意識みたいなものすら壊れていたんです。いま思い出してもゾッとするし、あのころだけには戻りたくないです。

当事者E:なんかひきこもっている自分が怖くなってきました。

リリー:大丈夫、なんとかなります。みなさんが不登校をしたり、ひきこもったり、生きづらかったりするのは、きっと自尊心が強いからです。オレもそうでした。自尊心が強くて感受性が強くてロマンチックだから学校や会社に絶望したんです。それは鈍感でいるよりもずっといいことです。日本にもいろんな人種がいるし、他人からは想像されづらい状況の人もたくさんいます。そういうことを知らず、人の痛みもわからない人間になるよりはずっといいことです。

 でも、きっとこれから自分の強い自尊心と戦うことになるはずです。観念ではなく具体的な出来事によって突き動かされように外へ出ていくはずです。なので、いまはムリをして焦る時期じゃありません。大丈夫、みなさんはまじめだからきっとなんとなるはずです。

一同:ありがとうございました。

(文/石井志昂)

※本記事は『不登校新聞』2010年10月15日号に掲載された記事を、当時は掲載しきれなかった当事者の悩みを加えて再編集した

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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