でも、人事担当者はそこまで言うなら、あなた以外にもちょっと気になった人がいたから、と同じく書類審査で落ちた人を数人集めて面接をしてくれた。結果、そのとき呼ばれたメンバーは全員、入社にこぎつけた。端から見れば、妻のクレームにともとられかねない激しく強い主張が他のメンバーの人生を大きく変えたことになる。しかし、本人はまったくそんな風には思っていないようだ。

 子どもの頃の夢を叶えることができる人は本当に少ないと思う。自分も放送作家にたどり着くまでにいくつもの夢を描いてきたからこそ、そこは本当にスゴイと思う。ここは、結婚する前から変わらないところだ。だから、そういう妻を応援するために僕は家庭に入りました、という理由を述べるのも嘘ではない。

 でも、実際はこの芯の強すぎる性格が子育てにおいては障壁になっているように見えて、結果的に自分から手を差し伸べてしまったという部分が強い。平たく言うと、妻はあまり家事や子育てに向いていないと感じたのだ。言葉がわからない子どもが相手でも妻は自分のペースを守るタイプなので、特に娘にとっては理解することができなかったんじゃないかと想像する。

 ここ数年、大田区の両親学級で講師をしている。その講演の中で必ず言うことがある。「結婚に関する僕の勘違い。それは、結婚して子どもを産んだら、女性は家事や育児ができるようになる、と思っていたこと。でも、結婚してもこどもを産んでも、家事や育児が得意ではない女性もいるんです」会場には出産を控えた女性と、その夫がいるが、だいたい男性はピンときていなくて、女性の何割かがうんうんと頷く。

 後から知ったことだけど、子どもが家事や育児について意識するようになるのはだいたい10歳くらいのことらしい。つまり、10歳のときに見た家事や育児をしている人(多くは母親だと思う)が、その人の家事育児スキルのデフォルトになる。10歳の時、となると、すでにその時点で「10年選手」。多くの男性は、結婚、そして出産したばかりの妻の姿をその「10年選手」に重ねる。結果的に、今目の前にいる妻ができない妻に見えてしまうらしい。

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主夫と名乗ることで腑に落ちた