中日・松坂大輔 (c)朝日新聞社
中日・松坂大輔 (c)朝日新聞社

 新聞には「版」と呼ばれるものがある。

 発送に時間がかかる遠隔地に届けられる新聞は「早版」で、締め切り時間が早い。各社の事情はそれぞれ違うが、ナイターの途中に、まずはその“1度目の制限時間”が訪れるケースが大半だ。

 その場合、球団の広報担当者から番記者たちに送られてくる「広報メール」が頼みの綱になる。登板後の投手やタイムリーを打った打者の談話を広報担当者が聞いて、試合中に伝えてくれる。これをもとに、番記者たちは途中版の原稿を書いていく。

 降板した松坂大輔の談話が配信されてきたのは、中日の8回裏の攻撃中のことだった。

「自分のエラーで2点目を許してしまった。悔いが残ります」

 その短いコメントには、満足感のかけらも感じられない。むしろ、不満と怒りに満ちあふれていた。

 7回2失点、自責点1。

 メジャーリーグで、勝ち負けを問わず先発投手の出来を示す「指標」として使われるのは、6回自責点3以内の「クオリティー・スタート」、そして、7回で自責点2以内の「ハイクオリティー・スタート」。

 つまり「HQS」。

 松坂のこの日の投球内容は、文字通りに“上質の投球”だった。ただ、自責は1。阪神に奪われた決勝点、4回に失った2点目は、松坂自身の失策がきっかけとなった、余分な失点だった。

 あれは、防げた。

 その後悔が、松坂の心からぬぐえなかった。試合終了から1時間20分後。多くの選手が帰路につき、駐車場にも空きのスペースが目立っていた午後10時10分すぎ。空虚な、静まりかえった関係者駐車場で、松坂は二重三重の記者団に囲まれていた。

 質問に答えながら、何度も何度も、右斜め方向を見上げていた。時折、ため息をつき、悔しさを押し殺すように、一つ一つの言葉を振り絞った。

「チームが連敗していましたし、それを何とか止めたかった。チームが勝つチャンスが生まれればよかったんですが……。それができなかった。2点目も自分のミスから取られましたし、うまく流れを持ってこられなかったのかな……、と」

次のページ
悔いの残るプレー