カテーテル治療に比べその歴史は古く、長期成績も証明されています。冠動脈に複数の狭窄がある場合や、冠動脈の根元である左主幹部近くが詰まっていてカテーテル治療が難しい場合にはバイパス術が推奨されます。2012年、天皇陛下も受けられた手術です。

「昨今では、80歳以上の高齢の方でも、自分の足で歩けて、食事がきちんと摂れて、認知症がない方なら手術を積極的におこないます」(同)

 バイパス術は、傷んだ血管の代わりに、体の他の部位から採取した迂回路用の血管(グラフト)をつなぎ、迂回路を作って血流を確保する手術です。グラフトには、内胸動脈という胸骨の裏にある血管や足の静脈、胃の血管などを使います。これらの血管は、切り離して使っても、他の血管で役割を補えます。特に内胸動脈は、動脈硬化が最も起こりにくい、バイパスに最適な血管です。

 現在、日本で実施される冠動脈バイパス術の6割は、人工心肺を使わずに心臓を動かしたままおこなう、オフポンプバイパス術という方法です。人工心肺を使わないため、心臓や全身への負担が少なく、術後の回復も早いのです。心臓を止めるとリスクの上がる腎機能の悪い人や動脈硬化がかなり進んだ人でも手術できるのがメリットです。手術成功率は全国平均で99・5%と極めて安全性が高いことがわかっています。

「ただし、オフポンプかそうでないかにこだわらず、適応条件をきちんと評価して、安全で確実な手術を提供することが大切です」(同)

 患者の高齢化に伴い、複数の心疾患を抱えている人が増えているため、近年の冠動脈バイパス術は、他の心臓病の手術も同時におこなう複合手術が増えています。単独バイパス手術と複合手術の割合は7対3くらいで、年々、複合手術が増加しているといいます。

「カテーテル治療かバイパス術かの選択を含め、心臓の内科と外科がきちんと連携し、話し合って決めている病院で治療を受けるべきです」と橋本医師は強調します。

(取材・文/伊波達也)