実は、これは入試に限った話ではありません。医学部は教育機関ですが、学生を「将来の労働力」と見なしていると感じることが多いのです。これは東京医大に限った話ではありません。
こんなことがありました。
医学生時代、各科で実習する度に入局説明会や歓迎会に誘われました。そこで、「女医は医局に入らないと仕事を続けられない」と繰り返し言われました。ある外科を研修しているときには、女性医師が「女を捨てた」と言われているのを耳にしました。外科は出産や子育てなどはできないのだな、と学生ながら感じました。別の科では、オンオフがはっきりしているから女性も働きやすいよ、としつこく言われたこともありました。一番驚いたのは、産婦人科の40代の女性医師が、「私が結婚した当時は、子どもは産まないで必死に仕事をしなさい、と結婚式のお祝いの言葉で言われるような時代。それに比べたら今は良くなったほうよ」と言っていたことでした。典型的な「男社会」の中で、女性医師が生きて行くのは大変だと、その時、肌で感じたことを覚えています。
医局の勧誘だけでなく、今春導入された「専門医制度」も医師や医局員不足対策として「囲い込み」をしているにすぎません。専門医制度では、若手に「専門医」という肩書きをチラつかせ、医局員として働かせています。専門性とは一生かけて取得していくものではないのでしょうか。数年で取得できるはずがありません。まして、学会費を支払い、学会に参加し、決まった症例数と決まった年数をクリアすれば取得できるなんて、どう考えてもおかしな話です。「専門医」って何なのでしょうか。
ただし、これは教授からすればありがたいことなのです。最も働いてくれる30代前半までの医師を、専門医取得と称して囲い込む。そして、後期研修を終えれば、「雇い止め」し、新たな若手を「教育」という名のもとで縛り付ける。一般的なら、こんな有期雇用は認められないでしょう。
■「女子差別」問題が浮き彫りにした医師の囲い込み
女子受験生を一律減点し、恣意的に減らしていたことは「女子差別」であることに間違えはありません。けれども、根底に隠れている問題は、日本では「医学教育」という名の下、大学において入試や専門医の名を語った医師の囲い込みや就職活動が行われているという現状があることです。大学は本来、学生の味方です。優秀な人材を低コストで調達したい企業とは利益が相反することがあります。ところが、このことが全く認識されていないのです。
そもそも、医学教育に大学附属病院は必須ではありません。周辺の病院に協力してもらえばいいのです。米国では当たり前に行われている医学部と大学病院との分離を考える時期にきているのではないでしょうか。
◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)