頭を下げる東京医科大の行岡哲男常務理事(左)と宮沢啓介副学長(学長職務代理)。8月7日の会見で(c)朝日新聞社
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 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、東京医科大入試の「女子差別」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

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 東京医大が入学試験において女子受験生を一律減点し、恣意的操作を行っていたことが発覚しました。それに加え、浪人生も不利に扱う点数操作が遅くとも2006年入試から続けて行なわれていたことも、調査によって報告されています。さらには、一般入試だけでなく、推薦入試や地域枠入試でも操作があった可能性があるといいます。裏口入学に続く、前代未聞の不祥事であり、海外でも報道され注目を集めているこの問題について、お話ししたいと思います。

 東京医大は、女子の合格者数を3割程度に抑えていた理由として、女性は結婚や出産で医師を離職するケースが多いことや、短時間勤務になりやすい女性医師を増やしたくないこと、さらには緊急手術が多く勤務体系が不規則な外科系の診療科では、「女3人で男1人分」と、出産や子育てを経験する女性医師は男性医師ほど働けないことをあげていました。系列の病院で勤務する医局員不足を懸念しての「必要悪」であり、「暗黙の了解」であったといいます。

■東京医大の言い分を聞いて愕然

 私は、東京医大の言い分を聞いて愕然としました。医学生を、自らが経営する病院で働く労働力としか考えていないと思ったからです。

 一般に、女性の労働力率は、結婚や出産期に当たる年代にいったん低下し、育児が落ち着いたころに再び上昇することが知られています。これを「M字カーブ」といいます。女性医師も例外ではありません。平成18年度厚生労働科学研究「日本の医師需給の実証的調査研究」によると、女子医師の就業率は、医学部卒業後減少傾向となり、卒後11年目(36歳)で76.0%まで落ち込んだ後、再び回復しています。

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