「日本の学校では歴史を縦軸ばかりで捉えて、全て過去のこと、終ったこと、今の自分たちには関係のないこととして教えているように思えて残念です。さきほどのデンマーク人の例にもあるように、歴史は生活や個人の中にしっかり息づいているものとしてとらえられたら、違った見方ができるのではないでしょうか」

『テルマエ・ロマエ』の舞台を1~2世紀、ハドリアヌス帝の時代に設定したのも、歴史が絡んだ判断だったそうだ。

「パクス・ロマーナ(ローマの平和)と言われる戦争の無い時代だった、というのが大きいです。平和が人々の生き方や考え方にゆとりをもたらし、はじめて、公衆浴場のようなレジャーや余剰産業にも意識が向くようになる。衣食住だけではなく、生きる上で『必需』じゃないものを面白がることができる。その後の軍人皇帝時代のような乱世では、主人公がシャンプーハットを提案しても誰も気に留めませんよ。それどころか、『こいつこんな大変な時になんてバカな発想してやがる!』と非難されるでしょうね(笑)」。

◆ヤマザキさんが歴史を学んでよかったと思うことは?

「自分の頭で考えたことに、責任をもてるようになったことです。人間って、理解できない状況に置かれた時、それを言葉でうまく言い表してくれた人についていっちゃうところがあると思うんです。歴史上には、本当にいろいろな人がいて、さまざまな事件がある。それを知ると『ああ、今起きていることは、歴史上のあの現象と近いな』と納得できるから、人に流されたり、付和雷同することが少なくなります。
あと、とんでもない人に出会った時、『この人はちょっとスターリンっぽい。避けよう』と判断したり……(笑)」。

 萌えてトキメいて役立てる。ヤマザキさんは、歴史の生かし方も「ヤマザキ流」だった。(ライター・砂崎良)

ヤマザキマリ(漫画家・随筆家)
1967年東京都出身。17歳で絵画の勉強のためイタリアに渡り、国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で、油絵と美術史を専攻。'97年漫画家デビュー。『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。著書に『国境のない生き方』(小学館)、『男性論』(文春新書)、『スティーブ・ジョブズ』(講談社)、『プリニウス』(とり・みきと共作 新潮社)など多数。シリア、ポルトガル、米国を経て現在はイタリア在住。平成27年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。平成29年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。2018年春より新連載、古代ギリシャと日本のオリンピック比較文化論漫画『オリンピア・キュクロス」がスタート!

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