「我々は『欧州』とひとくくりにしがちですが、同じイタリアの中でさえ、私が『南部に旅行してくる』と言ったら北部の人に『えっ、大丈夫!?』『危険じゃない?』なんて言われたこともあります。イタリアが統一されたのはわずか150年ほど前のこと。意識はまだ分断されているんですよ」
そう語るヤマザキマリさんは、大ヒット漫画『テルマエ・ロマエ』の作者。その作品は、歴史についての博識に裏打ちされ、専門家の評価も高い。
そんなヤマザキさんは、このたび『エリア別だから流れがつながる 世界史』(朝日新聞出版)特装版の装画を担当。カバー裏面に掲載しているインタビューでは、ヨーロッパ暮らしが長いヤマザキさんに、歴史の知識が役立った体験を聞いている。
掲載しきれなかった内容の一部をここでご紹介する。
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「デンマークに滞在していたときのこと。現地でお世話になった人達がみな優しくて親切で気のいいおじさんって感じだったんです。それが夜お酒が入ったとたん、『俺たちゃバイキングの末裔だ、なんせはるばるシチリアまで行ってあの島を征服したんだぜ!』と大盛り上がりで、一緒にいたイタリア人達が皆シーンとなっちゃったんです。シチリアは確かにいろんな国の統治下におかれた場所ではありますが、今ではイタリアですからね。そもそもバイキングのシチリア征服って11?12世紀のことですよ?! でも今だにそれが潜在意識下で、彼らの誇りになっているわけです」
イギリスのEU離脱や、スペインでのカタルーニャ独立問題で揺れる欧州。歴史的背景を知った上でヨーロッパに長く住むヤマザキさんにとって、これらは必然だと感じたそうだ。
「うまくいったら良いですけど、難しいだろうなと思っていました。それぞれの地域が分裂して発展し、確立されてから何世紀も経っています。でも、フランスでは古代ローマにガリアを征服されたことへの怨嗟が完全に払拭されていないようですし、かと思えばイギリスは古代ローマの統治下にあった歴史に誇りを持っているように見受けられます。欧州は国民の性格もふくめ、とにかく地域差が大きいのです」
古今東西の歴史エピソードが、次々と出てくるヤマザキさん。