いやいや、と首を振る。いいところも探そう。私は仕事柄読書体験は豊富だから、最低限のインテリジェンスはあるつもりだ。交友も広いし、冗談が好きで、一緒にお酒が楽しく飲めると定評がある(はず)。あ!お酒といえば大事なスペックであるはずの料理……、台所関係は料理上手なトウチャンに任せ切っていたので、ほとんどしない。せめて床上手なら救われるのだが、あいにく、こちとら、「21世紀処女」の異名をとるくらい、そっちのほうもとんとご無沙汰ときた。あちゃー、私ってば、壊滅的に女子力低すぎ!!

 セルフチェックの酷さに、少々落ち込んできたので気晴らしにゴールデン街のEちゃんママの店に出かけることにした。ゲイバーではないのだけれど、客の90パーセントはゲイで、ママと客の丁々発止のやりとりが笑える馴染みの一軒。ママのマシンガン毒舌を浴びれば、逆にすっきりするはずだ。

 その日も小さなカウンターは開店と同時に満席になり、私の隣には馴染みのゲイのKが座った。パーソナルトレーナーを生業にしている、おしゃべりで楽しいナイスガイだ。「ゆかりさん、ヤッホー。珍しいじゃん、ひとりだなんて」「うん、なんか自己嫌悪でさ……あ、そうだ、K!あんた、からだの専門家でしょ?私の肉体を鍛えて、アンジェリーナ・ジョリーみたいにできないの?」「やっだー、いくらオレでもそれは無理。骨格レベルで取り換えないと。ちょっと、そこに立ってみて」。Kはおもむろに私の全身を遠慮なくこねくり回しはじめる。「ひどいわね、なに、このお腹。でも、足の筋肉は悪くない。うん、ナイスバディにはならないけど、今よりマシなからだ造りになら貢献できるカモ。週一くらいで無理なくやってみる?」。両手でハイタッチし、商談成立。とりあえず、肉体改造はこいつにゆだねてみよう。ここからひとつずつ改善していけばいいんだ!

 その夜、私が書棚から手に取ったのはアドラー心理学を説いてベストセラーになった『嫌われる勇気』の完結編、『幸せになる勇気』。このシリーズは元気をくれ、迷いが減るので大好き。好きな頁をめくり、人生に必要なのは「自立」と「愛」であることを改めて噛みしめながら眠りにつき、なぜか、黙ってタバコをくゆらせるトウチャンの姿を夢で見た。(中瀬ゆかり)

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