またこの季節が巡ってきた。トウチャンが逝ってから4度目の春だ。彼は、桜が大好きだった。亡くなる少し前に満開だった桜を見に、ひとりでタクシーに乗って青山墓地の桜トンネルをくぐってきた、と話していた。「おまえが忙しくて花見にも付き合ってくれないからよぉ、ひとりで夜桜見て来たよ」と言われたときには「来年は絶対一緒に見に行こう」と誓ったのに、その2週間後には帰らぬ人となり、その約束は果たされなかった。亡くなった日から10日後にはタイに出かける予定だった。だから、しばらくはタイに足を踏み入れることができなかったのだが、親友のM子に付き合ってもらってプーケットにわたり、トウチャンが通いつめたお気に入りのレストラン「ブラックキャット」で食事をしながら、亡霊と会話しているような錯覚に陥ったりもした。その後、彼の愛した競輪や一緒に通った雀荘にもようやく足を踏み入れることもできるようになった。もちろん、トウチャンの亡霊はそこかしこに見えるし、声が聞こえるのは変わらないのだが、それでいいのだ。だって彼と私はようやく一体化したのだから。
中瀬ゆかり「トウチャンが逝ってから4度目の春、ようやく再生した私の使命」【最終回】
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