
野球界の現状に対する“アンチテーゼ”とも言える画期的なアイデアが発表されたのは、2017年11月7日のことだった。
関西を拠点に活動するプロ野球独立リーグのベースボール・ファースト・リーグ(BFL)が、来年2018年から高校生を受け入れるために構築する新たな育成システムの骨子をまとめると、こういうキャッチフレーズになる。
その仕組みと、こめられた意味を説明していこう。
BFLの兵庫球団が向陽台高(大阪府茨木市)と、そして和歌山球団も神村学園高(鹿児島県いちき串木野市)とそれぞれ教育提携を締結する。それぞれ発足させる「育成チーム」は独立リーグ球団、つまりプロの「下部組織」となる。
その育成チームに所属するのは、2018年度の新入生と転入、編入してきた高校生で、上限は31人。選手たちはそれぞれの通信制高校で学びながら、育成チームでプレーすることになるのだが、この2チームはいずれも日本高等学校野球連盟(高野連)には加盟しない。ここが大きなポイントになる。
高野連に加盟しないと、まず「甲子園」を目指すための各都道府県大会には参加できない。つまり「甲子園を目指すことができなくなる野球部」になるのだ。さらに、現状のルール下では、高野連に加盟する学校とは練習試合を行うこともできない。
一方で、日本学生野球憲章には従う必要がないため、同憲章で制限されているプロとの接触や直接指導を受けること、さらにはプロ相手の交流戦に出場することにはまったく制限を受けない。
「もうひとつの成功のための受け皿になるという理念です」
このプランの仕掛け人であり、兵庫、和歌山両球団の代表とGMという『4役』を兼任する高下沢(こうげ・たく)が、その狙いを明かしてくれた。言葉をほんの少しだけ生々しくすれば、『既得権』に対しての『新勢力』とでも言えるかもしれない。1984年生まれというこの若き経営者が、野球界に新たなる風を吹き込もうとしている。
このプランの下地作りは、実は6年前にスタートしていた。その経緯を追っていく前に、まずは高下という男のキャリアをたどっていきたい。その歩みの中に、今回のプランに秘められた思いや狙いが見えてくるからだ。
* * *
高下は選手として決して華々しいキャリアを歩んできたわけではない。プロを目指し、広島工業大でプレーを続ける中でもうワンランク、自分の実力を上げたいと考え、大学4年のときに休学。独立リーグの四国アイランドリーグ(当時、現・四国アイランドリーグplus)の香川への入団を決意した。
2005年8月23日。シーズン中でのプロ入りとなった高下は、ナイターでの試合にいきなり出場した。
「衝撃的でした。すごい世界でした」
独立リーグとはいえ、スタンドには数百人レベルの観客が詰めかけている。いいプレーには拍手が沸き、つまらないプレーにはヤジも飛ぶ。勝利を求め、自らのパフォーマンスを出し切ろうとする『プロ』の世界に、高下は魅了された。