芦屋大が野球部を持つ目的は、将来的に高校や大学の教員として野球部の指導者を目指す人材を育てることにあった。現在でも全国レベルの強豪大学になると、100人超の部員を抱え、4年間で1試合も公式戦出場のないまま卒業する選手もいると言われる。それでは教えるための技術を高めたり、実戦経験を積んだりすることができない。

 この問題を解消するために、高下はまず兵庫球団に2軍を作り、そこに芦屋大の選手を所属させるというシステムを考案した。ここで注目すべきポイントは『2軍=芦屋大の学生』『1軍=独立リーグ』という図式だ。つまり、プロと大学が事実上の同一チームを結成して1、2軍の練習も合同で行う。大学生が独立リーグの試合でプレーするのは、プロ野球で2軍から1軍に選手が昇格するのと同じ意味合いと考えればいい。この“飛び級”によって、芦屋大の学生はBFLの公式戦で実際にプレーしており、そこからドラフト指名を受けた選手もすでにふたり生まれている。

 2016年に育成ドラフトで巨人から3位指名を受けた山川和大は、芦屋学園高の軟式野球部出身。芦屋大に進学後、兵庫球団の2軍でプレーしながら力をつけた。2017年にドラフトで楽天から5位指名を受けた田中耀飛も、英明高(香川)時代は甲子園でプレーできなかった無名の選手。芦屋大に進学後、3年から本格的にBFLの公式戦に出場し、巨人や楽天、阪神との交流戦でもその長打力を発揮してプロ入りの夢を実現させた。

 田中は楽天への入団が内定した後、芦屋大で行われた記者会見でこう語っている。

「自分の友人も、強豪の大学に行っています。うまくいけば試合に出られるんですが、部員は150人、200人といるそうで、練習もなかなかできないと聞きました。でも、芦屋大では練習時間も平等で、みんなを平等に監督やコーチも見てくれます。この大学に入った理由はNPB(セ・パ12球団)出身の監督やコーチに指導を受けられ、試合も多く、野球と勉強の両立ができるからです」

 連盟に入らなければ『芦屋大の選手=一般学生』という解釈が成立するため、先述のプランを芦屋大が実行に移す際には連盟のコントロールを受けることもなく、憲章を遵守する必要もない。大学に生徒を送り出す高校側にしても、野球の技術レベルは決して高くないもののリーダーシップが優れていたり、指導者になるためにきちんとした技術や指導法を学ばせたい教え子を抱える指導者たちには、芦屋大の打ち出した新機軸は魅力的に映ったようで、進学志望者は年々増加。2017年現在で、36人の芦屋大生が兵庫球団に在籍している。

 高下は、このシステムを高校野球にも導入しようと考えたのだ。

<中編>へ続く

(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)を出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。