時は1861年。近代医学教育の原点となった「小島養生所」が、長崎に設立された。当時、医学を学びに他藩の医師が全国から集まったが、150年以上が経過した現在も九州全域で「医」は熱を帯び、医学部受験に強い高校も林立している。なぜ九州なのか。発売中の週刊朝日ムック『医学部に入る 2018』では、九州の「真」の実力を探ってみた。
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「九州地方は、江戸時代の長崎以来、日本の医療をリードしてきました。医師数、医学部数ともに全国トップランクの医療先進地域です」
医療ガバナンス研究所理事長で、『日本の医療格差は9倍』『病院は東京から破綻する』などの著書がある上昌広医師は、こう話す。
九州各県の医師数を見てみよう。人口10万人あたりの医師数は、宮崎が全国平均の233.6人をわずかに下回るだけで、それ以外は全国平均を上回っている。特に、国立の九州大、私立の久留米大、福岡大、産業医科大と、医学部が四つもある福岡県は、292.9人と多い。
2015年の国勢調査によると、九州・沖縄地方の人口は8県合わせて約1445万人。この人口に対して医学部を持つ大学数は11で、このうち8大学が国立だ。東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏の人口が約3613万に対して国公立大が4校しかないことと比べると、九州では一般的な家庭の子どもが医師を目指しやすい、医師になりやすい風土や環境があるといえる。
「私たちの調査によると、佐賀、長崎、鹿児島では、医師になる高校生が特に多い。また、九州の医学部の卒業生は、九州内では移動しても九州外への流出率はわずか5%です。特に福岡、熊本、沖縄は県外への流出が少ない。それ以外の県の流出先としては福岡が多いようです」(上理事長)
なぜ、九州は医師を目指す高校生が多いのだろうか。熊本の名門予備校・壺溪塾の木庭順子塾長は、こう語る。
「九州は首都圏ほど就職先が多くないため、理系で成績中上位層の生徒は医学部を目指す傾向が強い。九州大や熊本大などの難関大に加え、比較的受験しやすい難易度の国立大、卒業後の条件を満たせば低学費で学べる産業医科大もあります。国公立大の後期試験と産業医科大の2次試験は同じ日ですが、両方に出願し、直前にどちらかを選ぶ生徒もいます」
一方、医師の九州外への流出が少ないのは、なぜか。駿台予備学校福岡校の阿南順太郎校舎長は、こう話す。
「九州の生徒は地元志向が強く、九州内の医学部を目指す傾向が強いことが理由だと考えられます。世界レベルの研究を行う伝統ある大学が多いうえ、温暖な気候と住みやすさもあるため、卒業後も残るケースも多いと思います」
(文/庄村敦子)
※週刊朝日ムック『医学部に入る 2018』から抜粋