ひきこもりに名人がいることをご存知ですか? 親との関係はぎくしゃくし、家の中の空気が重苦しくなるのは必須だとされてきた、ひきこもり当事者に激震が走った名人の教えを、「不登校新聞」編集長の石井志昂さんが紹介します。
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自称「ひきこもり名人」、勝山実(45歳)。高校三年生の時に不登校をして中退。以後、ひきこもり生活をを送っている。
名人曰く、ひきこもりにはヒエラルキー(階級)がある。最下層は仕事のある人たちの中でも「正社員」。そこから「フリーター」「病人」「ひきこもり」「名人」と位が上がっていき、頂上は「涅槃(ブッダ)」。
涅槃まで行けば人類を救えますが、「自分はまだまだ名人です」と勝山は謙遜する。
名人自身はこれまで「高校中退者」「浪人」「就労希望者」「病院」「ひきこもり」「名人」というルートをたどりました。
「ひきこもりからフリーターへ、フリーターから正社員へと、ひきこもりヒエラルキーを下がってしまうのがふつう。それが苦しさの源だ」と名人は言います。社会復帰を望むことこそが、ひきこもりの“煩悩”ということなのでしょう。名人は涅槃ではありませんが、経験に裏打ちされたその発言には、多くの不登校、ひきこもり当事者たちが救われてきました。
なかでも、当事者界隈が騒然としたのが、骨太の方針「ママンのお土産を着よう」です。
■自尊心と引き換えに
ある年の4月、名人は家庭内でたいへんな局面を迎えました。
「ダディ―」こと勝山父が3月で定年退職。「ママン」こと勝山母はこれまでどおり専業主婦。名人は当然、ずっと前から自宅待機。つまり、3人とも家にいる時間が長くなったのです。
必然、ダディ―は「何で息子は働かないんだ」と昼間から鼻息も荒く、ママンも「そうなのよ」とため息が深い。昼ドラなんか眼じゃない、親子三人水入らずの地獄絵図です。
そんな困難に直面した名人は、突如、ママンのお土産であるTシャツを着ます。
胸には海抜2000メートルの高原にある世界遺産「マチュピチュ」の文字……。