──日本の刀剣には、長さの長短、槍、薙刀と多々ありますが、日本刀を代表する形は太刀ですか。

渡辺:そうです。太刀は上古代の大刀と異なって、太い刀と書き「たち」と読みます。太刀には海外にない日本独自の反りがあります。反りの曲線ひとつをとっても、一本一本違います。強くカーブしているものもあれば、すーっとなめらかなカーブを描いているものもある。ずっと見続けていると、その曲線から作刀の時代を見極められるようになります。

──刀の形状だけでなく、刀工の流派、制作年代によっても違いますし、柄や鞘などの装飾も多彩ですね。

渡辺:そうです。平安時代から江戸時代まで数百年の間に形と反りも変わります。またそれらを身につけるために刀身の着物である拵(こしらえ)も大層変化します。なんといっても武士たちは大変おしゃれですから。

 日本刀は、砂鉄からたたら製鉄で鋼をつくり、それを鍛錬し、焼きを入れ、研磨する。焼き入れによって生じる刃文とは「沸(にえ)」と「匂(におい)」のおりなす模様。目に見える大きめの粒子を沸、見えない小さな粒子を匂と呼びます。これも一本一本違います。沸のなかにも匂が感じられるなど、どちらか一方のみということはあまりありません。

 そして、作刀のどの工程でも「名人」と言われるような刀工や研師のわざには精神性が備わっています。

──日本刀は本来、戦うための武器であり、江戸時代には武士身分の象徴でした。戦前戦後も武士道や日本人の精神性とともに語られてきました。

渡辺:最高の武器を造ろうとすれば、わざの粋が極められ、おのずと美が備わる。それが日本刀です。

 当館では、実際に名刀を手に持つ体験ができる機会を、刀剣展の時などに設けています。手に刀の重みを感じると自然に背筋が伸びる。刀を手にした子どもには隣から解説しなくても、刀が子どもに語り掛けてくれる。だらだら生きていてはいけないと気づかされます。

 幕末や明治維新、終戦直後の時期には大名家のコレクションが散逸し、GHQが接収するなどして海外に流出しました。米国のボストン美術館やメトロポリタン美術館には、優品が集まっています。

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