でも、国内にはまだ数百万の刀剣があるといわれています。親の遺品を子が見つけ、あわてて警察や各都道府県教育委員会に連絡して日本刀の登録をする、といった形で発見されることもままあるためです。
──日本刀は、西洋や中国など世界の刀剣と何が違いますか。
渡辺:弥生時代から古墳時代にかけて、大陸から直刀が伝わり数百年かけて、日本の刀工たちが自力で刀剣を造るようになりました。大陸の刀に学んだ平造りや切刃造りから、日本刀独特の「鎬(しのぎ)造り」という形が生まれました。「反り」も日本刀の重要な特徴で、小柄な日本人にとって、長い太刀を素早く抜き差しするために、反った刀が便利だったのでしょう。
──有名な戦国武将が愛用した刀の物語はたくさんありますね。
渡辺:当館所蔵の国の重要文化財「秋草文黒漆太刀拵」と「太刀 銘 豊後国行平作」は、上杉謙信が愛用したと伝えられ、代々、上杉家に伝来しました。長尾家から出て名家を継いだ謙信らしいというべきか、神仏を敬い、天皇家や将軍家を敬う中世的な感覚が感じられます。この拵は「三日月」とも呼ばれ、鞘に大きな銀の三日月が象嵌されています。当時の拵がそのまま保存されているのは大変貴重です。
一方、実用の点から織田信長や豊臣秀吉は、刀身が長い刀は腰に差す時に不便だからと、2尺7寸(約82センチ)のものを2尺2寸(約67センチ)まで切らせて用いていました。
──改めて、21世紀の私たちにとって、日本刀とは何でしょうか。
渡辺:自分の命をかけ、家族、一族、そして国を守る。身に携えた名刀の清らかな光は争う心を静めます。争う心が静まれば平和が保たれることになります。名刀には、そうした偉力があるのです。
しかし、手入れを怠りさびてしまえばただの鉄。現在の私たちが目にする名刀は、数百年もの間、何人もの手から手へと伝えられてきた美術工芸の結晶ですから、積み重ねられた歴史とともに後世に伝えていけたらと思っています。
※週刊朝日MOOK『武将の末裔 伝家の宝刀』より