さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版、「世界の空港・駅から」。第12回はロシア・モスクワのブヌコボ空港から。
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日本という山がちな島国に育ったからだろうか。ひたすら広い平原というものへの憧れがある。地平線に沈む夕日というものを夢想していた時期もある。
これまでシベリア鉄道には3回乗った。ロシアという国の広さを体験したい、などと原稿では書いているが、広大な大陸を走り続ける列車旅の日々は、ひたすら暇である。前日とまったく同じ風景をまた1日見続ける。そしてまた翌日も……。暇なのだ。
シベリア鉄道の平原部分は、列車なら4泊5日ぐらいの距離だと思う。こういう広さを、小さいころから体で覚えてしまった人が設計すると、こうなるのだろうか。
モスクワのブヌコボ空港にいた。モスクワにはほかに、シェレメチェボ空港とドモジェドボ空港があるが、そのなかで、日本人にいちばんなじみが薄いのが、このブヌコボ空港だろう。
以前は、モスクワの空港といえばシェレメチェボ空港だった。僕も薄暗いこの空港で何回か飛行機を乗り換えた。シェレメチェボ空港の老朽化を受けてつくられたのがドモジェドボ空港だ。いまでは国際線の離着陸便が最も多い。だからなのか、ブヌコボ空港という名前はあまり耳にしたことがなかった。年間90万人ほどしか利用しないのだから無理もない。
ブヌコボ空港はなんでも、モスクワでいちばん古い空港だという。ロシアへの離着陸便が増えたことで、この空港も使わざるをえなくなったのだろうか。きっとこぢんまりとした空港だろうと思っていたのだが……。無駄に広いのだ。