人も少ないチェックインフロアから出国審査を受け、搭乗フロアに出たのだが、そこから搭乗口まで歩くこと30分、いや40分。1941年につくられたというが、なぜ、こんなにも大きな空港をつくってしまったのだろうか。
無駄な広さに、昨今のロシアの不景気が追い打ちをかけてしまった。搭乗フロアにある免税店などで開いていたのは4店ほど。搭乗口までの通路は、日本の地方都市のようなシャッター通りなのだ。
「この先にはなにもない」
そういわれても、搭乗口までの通路をとぼとぼと歩くしかない。僕の前にも後ろにも、人の姿はなかった。
広い国土で育った人の発想なのだろう。
シベリアのタイガの森を、延々と歩き続けることができる人たちの空港である。
飛行機の出発が遅れるという案内があった。どこかでコーヒーでもと思ったが、店が開いているエリアまでは往復で40分はかかる。乗客たちも、搭乗口でただ待ち続ける。皆、この空港の無駄な広さに身を委ねていた。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など