そばと切っても切り離せないのは「めんつゆ」だが、江戸でそばきりが広まった当時は、みそに水を加えて煮詰め、布袋に入れて吊るして垂らした「たれみそ」で食べられていた。というのも、当時しょうゆは関西から江戸へ運ばれており、珍重されていたのだ。その後、関東でもしょうゆが造られるようになり、みその代わりにしょうゆが用いられるようになった。さらに19世紀始めには、みりん・砂糖も加わった現在のそばつゆの原型ができたといわれている。

 1643(寛永20)年以前に書かれた日本初の料理専門書『料理物語』には、そばきりの作り方が書かれている。その中に「うどんのたれみそもしくは煮貫(にぬき/たれみそにかつお節を入れ煮詰めて濾[こ]したたもの)に大根の汁を加え、削り節・大根おろし・あさつきにからし・わさびを加えてもよい」という記述がある。実はご当地そばのひとつである福井の「越前そば」は、まさにこの食べ方をしているのだ。

 楽天トラベルが全国47都道府県の人気旅めしを調査した「旅めしランキング」でも、福井県で最もおいしかった旅めしとして1位に選ばれた越前そば。福井でそばきりが登場するのは1601年、先述の『料理物語』が書かれたのよりも前のことだ。この年に府中(越前市)の城主となった本多富正公が、そば師の金子権左衛門を伴って赴任したのを機に、そばの食べ方が大きく変わったとされている。本多富正が訪れる以前までは、そばはそばがきのような形式で食されていたが、京都で一行に加わったとされる金子権左衛門が、京都ではすでに食されていたそばきりを持ち込み、越前にも広まったと考えられている。

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