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人生はみずからの手で切りひらける。そして、つらいことは手放せる。美容部員からコーセー初の女性取締役に抜擢され、85歳の現在も現役経営者として活躍し続ける伝説のヘア&メイクアップアーティスト・小林照子さんの著書『人生は、「手」で変わる』からの本連載。今回は、自分の中に生まれた負の感情の手放すヒントをお伝えします。
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東京オリンピックが開催された翌年。昭和40(1965)年3月3日のことです。夫が運転し、私、娘、実母、妹が乗っている車は突然横から大きな衝撃を受けました。交差点で、18歳の青年が運転するトラックが運転操作を誤り、私たちの乗用車に追突してきたのです。
ドーンという激しい衝撃。悲鳴。そして車内で聞こえてきたのは夫と妹のうめき声です。運転席と、その後ろの座席はトラックが追突してきた衝撃でつぶれていました。助手席に乗っていた私、娘、そしてその後ろの座席にいた実母は軽傷。私はとっさに車外に出て大声で叫びました。
「誰か! お願いです、誰か助けてください!」
見れば、私たちの乗用車はほぼ半分につぶされている。車を運転していた青年は呆然としてその場に立ち尽くしています。周囲の人たちが、つぶれた車の中から夫と妹を助け出してくれ、私と実母は手分けをして、2人をタクシーで病院に運びました。
私はその頃すでに、教育部門からマーケティング部門に異動することが決まっていました。しかし異動する前の最後の仕事として、香港に1カ月出張することになっていたのです。会社は香港を開拓していこうとしていました。そこで私が現地スタッフの教育やメイクアップのデモンストレーションなどを行うことになっていたのです。
私たちはその頃住んでいた埼玉県の家から羽田空港に向かっていました。まだ1歳にもならない娘は、私の留守中は実母が預かってくれることになりました。実母と妹も車に同乗し、羽田でバトンタッチ。そんな段取りになっていたのです。
1歳にもならない娘を置いて海外出張に出かける私を、夫は家を出る直前までなじり続けていました。