元夫は結婚当初から、機嫌が悪くなると山田さんを無視する癖があった。あるときに体調を崩し、病院に足を運んだ山田さん。報告のため電話したが、元夫は無視して電話に出ず。自宅で指摘したところ逆上した。

「子どもの教育上良くない」と感じた山田さんが別れを切り出すと、元夫はそのまま家に帰らなかった。

「その時点で、離婚届に判はもらっていました。『これ幸い』と、そのまま役所に届けを提出したんです」

 家族で暮らしていた3LDKのマンションに息子、娘と残り、ウェブ関連の仕事を単発で請け負って生活費を賄った。

「親しい間柄だったからこそ、お金の話を出すことを躊躇(ちゅうちょ)してしまいました。離婚自体は後悔していませんが、慰謝料や養育費に関してはきちんと話し合っておくべきでした」(山田さん)

 こうしたケースは、決して珍しいものではない。厚生労働省がひとり親世帯に実施した調査(2016年度版)によれば、母子世帯のうち、元夫との養育費に関する取り決めを「行っていない」と答えたのは54.8%。半数以上の家庭が、養育費を受け取っていないということになる。

 養育費・婚姻費用に関しては、以前から金額の低さが指摘されており、16年には日本弁護士連合会(日弁連)が算定方式に関する提言を最高裁判所に提出。これを受け19年12月に最高裁が新たな算定表を公表、受取額は多くの場合、旧基準の1万~2万円増となった。

 しかし、なお課題は残る。提言の作成に関わった竹下博将弁護士は、こう言う。

「新算定表では旧基準同様、住居費・医療費について収入に応じた格差が生じ、子どもの分は引き取った親が全額負担します。子どもが成長し、新たな部屋が必要となっても、その費用は引き取った側の負担となってしまうのです」

 さらに、小さな子どもがいると、職探しも困難が多い。

シングルマザーの場合、働ける時間が限られていて、一人で家族全員の住居費・医療費を賄うことは非現実的。貧困の固定化や連鎖を招きかねません」(竹下さん)

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