世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。日本も例外ではなく、なかなか感染拡大が抑えられていない。一方で、抑え込みに成功しつつある国もある。その一つが、台湾だ。その台湾に研究のために行き来している日本薬科大学漢方薬学分野講師の糸数七重先生は今年3月に入国し、政府の制限により、現在も台湾に滞在している。台湾の新型コロナウイルス対策や最新事情を、医学博士、漢方研究者ならではの視点でリポートしてもらった。
【写真】コロナ対策が徹底されている台湾の大学の入り口はこちら
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私は、ちょうどウイルスの大規模な感染が世界各地から報告されるようになってきた3月2日に台湾に入国。その後、感染拡大により日本が海外からの入国に対して制限を設け始めた影響でそのまま台湾にとどまったことから、この感染コントロールの成功の実際を目にすることとなりました。
ふだんは日本薬科大学で、漢方薬学分野講師および漢方資料館の学芸員を務めています。また、本務校の姉妹校である台湾の中国医薬大学との間を中期滞在で行き来しながら仕事をしています。
私が現在滞在している台湾では、2020年4月27日現在、感染者数429人、死者6人、治癒して退院した人が290人……と、小さな国であるためもともとの国民数(人口約2360万)が多くはないことを差し引いても、世界でトップクラスの「感染コントロール成功国」となっています。
素早い水際対策、防疫物資を始めとする物流のコントロールなどが成功原因としてあげられる一方、現在中国が世界に向けて発信している「治療への伝統医学(注・漢方のこと)の活用」は、台湾では見られません。台湾では感染の検査は西医(注・西洋医学の医師のこと)のみが行うことから、感染陽性となった人の治療は引き続きすべて西医で行っているためです。
ただ、「発症者と濃厚接触があったなど、COVID-19感染の可能性が考えられる」場合でなければ、風邪様症状の患者さんはまず中医(注・漢方医学の医師のこと)にかかって中医で治療を受けることが多いため、ひょっとしたら「実は感染していたがごく軽い症状の人」はそのまま中医によって治癒していた、という可能性も考えられなくはありませんが。
現在の台湾における一番の特徴は、全世界的な問題となっている「ロックダウン・自粛」をそもそもしていないということではないかと思います。
規模を縮小しながらも国内の「日常」の維持を可能にした大きな理由のひとつとして、早期からの厳格な水際対応が挙げられます。
3月21日時点で台湾は、台湾人の帰国および特定の理由がある外国人の場合を除いて全世界に対する入国禁止措置を取りました。そこで「国外からの感染持ち込み」が大きく制限されたことから、本稿を執筆している4月末時点で台湾内にいる外国人は「3月21日以前に入国しており、特に問題も起きていないので、台湾人と同程度に安全」な存在である、とみなされています。外国人が危険視や差別の対象になっているというニュースなどを目にするたびに、国内が安定しているからこそ外国人が安心して居住していられるのだ、ということを実感するこの頃です。