「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第25回は「アジアの国境のコロナ禍」について。
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新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、世界の多くの国境が閉鎖されている。ロックダウンと鎖国化。この対策をとる国が多いからだ。
昨年、タイの国境地帯をぐるりと巡った。タイはカンボジア、ラオス、ミャンマーとマレーシアと接している。通過できる国境は10ヵ所を超える。それらの国境も閉鎖された。
国境を越えてタイからミャンマーに入ってみようと、タイ東部のメーソートに着いたのは8月末だった。メーソート市内からトゥクトゥクと呼ばれる三輪タクシーで国境に向かった。トゥクトゥクは、延々と続くトラックの車列の脇を進んだ。その長さは10キロ? 20キロ?
ときおり、反対車線をミャンマー側から戻るトラックが通っていく。荷物は積んでいない。物資はタイからミャンマーに届くだけの一方通行だった。タイとミャンマーの経済格差はこんなにもあるのか。ため息が出た。
国境に着いた。反対側、つまりタイに入国する人の通路には、白いジャンパー姿の集団が見えた。タイに出稼ぎに行くミャンマー人たちだった。仕事を求めて越境する人の動きも一方通行だった。荷物とは向きが違ったが。
新型コロナウイルス対策で、バンコクの飲食店がテイクアウト販売のみになったとき、ひとりの日本人経営者はこんな話をしてくれた。彼がバンコクで2軒の日本料理店を経営していた。
「うちの従業員の3分の2はミャンマー人。彼女らはミャンマーに帰ることができないから、ずっとバンコクにいる。その間の費用を考えると、うちは倒産してしまうかもしれない」
バンコクはいま、ミャンマー人やカンボジア人など周辺国の労働力で支えられている。コロナ禍はその実態を浮き立たせた。