当事者にとって、母の介護をさらに重くするものは、介護に娘の献身を求める世間の変わらぬ意識だ。

 私は、介護保険制度施行以来、多くの介護現場で取材を続けてきた経験を通じ、制度は理念として介護を社会化したものの、介護を親子愛や親孝行の側面から語る人々の心情、ケアの担い手としてまず女性が期待される性差別的な文化や習慣は、一朝一夕には変わらない、と痛感させられることがしばしばだった。

 母と複雑な関係にあるために直接の介護から距離を置いていた人が、居宅介護事業者から「親をほったらかして」と非難がましい言葉を浴びせられたり、母が利用する施設の職員から「お母さんを大切にしてあげて」と説教めいた口調で言われ、違和感を覚えた経験を語ってくれた人もいる。

 相手が息子の場合は控える言葉も、娘には容赦ない。

 介護の質に定評のあったある認知症高齢者グループホームの管理者は、面会に来ない家族の一部には、その背景に良好でなかった親子関係の歴史があると認識した上で、「家族の最後の出会い直しをお手伝いするのも、介護者の仕事です」と語った。実際、それは多くの家族に喜ばれ、関係者や研究者にも評価されていたけれど、そんなことで出会い直しを目論まれるのはまっぴら、と感じる人たちもいただろう。(ライター・寺田和代)

週刊朝日  2020年5月22日号より抜粋

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