


新型コロナウイルスの緊急事態宣言が全国で解除されたとはいえ、さまざまな制約のもとで暮らしていかなければならない。感染への不安から生じる怒りを抑え、過度のクレームでスーパーやドラッグストアなどの従業員を心身とも追い詰めるカスタマーハラスメント(カスハラ)をせず、心穏やかに日々過ごすにはどうすべきかを考えたい。
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2月、東京都内のドラッグストアで起きた出来事だった。
「なぜマスクがないのか」
記者が店に入ると、客が店員に詰め寄っていた。
「ぜんそくなのよ、必要なの。いつ入るの」
「わかりません」
「入ったら教えて」
「入荷したらすぐに売り切れます」
「じゃあどうすればいいの」
「わかりません」
この押し問答が数分続いた。客も感染が不安で必死だったと思うが、店員も困り果てているようだった。
コロナ禍で、こんな光景に出くわした人は少なくないだろう。
「もともと不寛容社会と言われる傾向があって、コロナでそれが爆発してしまったというのが少なからずありますね。カスハラする人はする。ただ、それが明らかに増えているのは問題です」
こう話すのは関西大学社会学部教授で、社会心理学が専門の池内裕美さんだ。
「みんな自分の身が大事だし、(不要不急の外出を自粛している間に)家族でスーパーに行きたいところを我慢して一人で行ったのに、そこで家族でワイワイしている姿を見たら腹が立ちます。他罰的、攻撃的になってしまうんです」
マスクをしない客がいる、商品にべたべたと手を触れている人がいる、これもすべて貼り紙などで感染予防対策をしていない店が悪い──。感染拡大の不安から生活者に不満や怒りがたまり、感情の矛先がスーパーやドラッグストアなどの店員に向かう。これがコロナ禍のカスハラだ。小売りやサービス業で働く人の労働組合「UAゼンセン」には、いくつも報告が届いている。
店員を攻撃することで、多少の正義感と(状況が改善すれば)達成感、承認欲求が得られると、池内さんは指摘する。ストレス発散にもなるようだ。