『ぼくのポーポがこいをした』(左)、『おかねをかせぐ!』
『ぼくのポーポがこいをした』(左)、『おかねをかせぐ!』
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『タンタンタンゴはパパふたり』(上)、『王さまと王さま』
『タンタンタンゴはパパふたり』(上)、『王さまと王さま』

 コロナ禍で自宅にいる孫に絵本を読んであげる機会も増えたことだろう。絵本の世界が変わってきているのをご存じだろうか。恋にLGBT、マネー、怪談、哲学と、扱う幅もテーマも大人並みなのだ。孫と読みたい、令和の絵本を紹介する。

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 日曜日、ぼくのおばあちゃんとぬいぐるみのポーポが結婚する。ある夜ぼくは見てしまった。二人がキスするところを──。

 純愛小説の導入部ではない。芥川賞作家の村田沙耶香さんが書く絵本、『ぼくのポーポがこいをした』である。2019年5月に岩崎書店がスタートさせた「恋の絵本」シリーズは、当初から話題を集め、現在5冊目だ。

 王子さまとお姫さまの恋を描く古典の絵本はあった。だが、恋愛や結婚観が変化した「いま」の感覚に響く絵本だ。既巻の4冊も桜庭一樹さん、辻村深月さん、島本理生さん、白石一文さんら直木賞作家らがズラリと並び、子どもと同じ目線で「好き」の物語を描く。

 当初は、「絵本で恋愛を題材にするなんて──」と批判もあった。なぜ、恋の絵本をつくろうと思ったのか。編集を担当した堀内日出登巳さんはこう話す。

「きっかけは、知り合いの子どもが通う幼稚園での告白ブームです。彼らの早熟さに驚くと同時に、『好き』という宝物のような気持ちを描いた絵本をつくりたいと思った」

 プロレス誌の編集者から絵本の編集者へ。異色の経歴を持つ堀内さんは、「怪談えほん」シリーズ、歌人の穂村弘さん監修の短歌絵本『納豆の大ドンブリ』、しりあがり寿さんの『はしるチンチン』など、常識を打ち破った絵本でヒットを出し続ける名物編集者だ。

 11作で累計30万部を出している「怪談えほん」。第1期は、11年に出した宮部みゆきさんの『悪い本』を皮切りに皆川博子さんの『マイマイとナイナイ』、恒川光太郎さんの『ゆうれいのまち』と続いた。今年1月に出た有栖川有栖さんの『おろしてください』は表紙だけでも怖い。もともと絵本業界は、保守的な雰囲気がある。「小学生向けにこんなものを出すなんて」と批判も強く、「図書館にも置いてもらえませんでした」(堀内さん)。だが、京極夏彦さんによる『いるのいないの』で、「本当に怖い」と大人から評判が広がり、子どもの間でも人気に火がつき、「怪談えほん」シリーズは、絵本業界のホラージャンルとして確立した。

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