今もまだ残る古き良き店を訪ねる連載「昭和な名店」。今回は日比谷公園内の老舗洋食店「日比谷松本楼」。
【写真】店には渋沢栄一が書いた「松本楼」の題字が掲げられている
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1903年、日本最初の西洋式公園として日比谷公園が造られた。同時に、園内に立つ日比谷松本楼も開業した。4代目社長の小坂文乃さんが説明する。
「公園の設計段階から、園内には三つの洋=西洋植物、西洋音楽堂、洋食レストラン=が必要だと決められていたそうです。当時、うちは銀座で割烹松本楼を経営していましたが、初代社長の小坂梅吉は洋食も大事だと入札に参加し、営業権を落札しました」
公園内での洋食。そのハイカラさに文人が飛びついた。夏目漱石の『野分』にはステーキを食べる様子が詳述され、高村光太郎の『智恵子抄』にも登場する。また辛亥革命の志士・孫文も、日本滞在中にしばしば来訪。モボ・モガたちの間で「松本楼でカレーを食べコーヒーを飲む」のが流行した。
関東大震災での焼失、太平洋戦争後の米軍による接収、沖縄返還デモに際しての放火焼失。度重なる試練に耐え、今に至る。
「公園の中にあるので、老若男女誰にでも喜んでいただけることが大事です。ですから料理は普通じゃないといけない。普通でおいしいものをお出ししています」
デミグラスソースを2週間かけて作るなど、地道に「普通でおいしいもの」を追求している。(取材・文/本誌・菊地武顕)
「日比谷松本楼グリル&ガーデンテラス」東京都千代田区日比谷公園1‐2/営業時間:11:00~20:00L.O./定休日:休なし
※週刊朝日 2020年7月10日号