日本全国には3万カ所以上の温泉があるという。温泉はそれぞれに「効能」を持ち、先人たちは「湯治」という方法で気になる病状を癒やしてきた。
日本人が長寿である秘密のひとつが、入浴習慣だ。リハビリテーション学が専門で温泉療法に詳しい国際医療福祉大学大学院の前田眞治教授はこう話す。
「入浴で体の深部体温が1度上がると、痛みを感じる神経が鈍くなり、関節や筋肉の痛みが和らぎます。副交感神経が刺激されてリラックスし、脳波もα波が出るので、筋肉の緊張もほぐれます。骨折は寝たきりの原因の第2位。関節などに痛みがあると、ふとした瞬間に踏ん張りが利かず転倒しやすくなる。痛みのケアは、寝たきり予防に重要です」
お湯に浸かったときの、思わず「あ~」と声が出て、身体がほとびるようなあの感覚。身体に悪いわけがない。入浴すると内臓も刺激される。血の巡りが良くなるので、老廃物が排出され、新陳代謝が良くなる。
「さらに、傷んだ細胞を修復する働きを持つたんぱく質が生まれ、免疫力もアップします。こういった効能は科学的に証明されています。寝たきりの原因第1位の脳卒中につながる高血圧症や動脈硬化症、糖尿病などの生活習慣病を緩和する効果が期待できます」
水道水を温めた「風呂」にも、同じような働きはあるものの、温泉には水道水にない良さがある。
「温泉に溶けているミネラルなどの成分が影響して、水道水より1.5倍程度、早く体を温めます。塩分を含む『塩類泉』は成分が皮膚の表面の溝で結晶化するので、体温が下がるのを防ぎ、湯冷めしにくい。皮膚の細胞の増殖を促したりする有効成分もあります。温泉は薬ではないので『すぐに、誰にでも、絶対効く』ものではありませんが、さまざまな慢性疾患を緩和してくれるでしょう」
外科手術や薬、生活習慣の改善などといった治療の補助輪として温泉を活用するのが賢い方法なのだ。
※週刊朝日 2013年1月18日号