前述したように、3度のバブルと2度の崩壊を経験している50代の役員は、値引きにかじを切りやすい。特に「コロナ前」物件の処分は喫緊の課題になっているはずだ。ちょっと無理目の値引き要求も、役員会にかけられれば通るかもしれない。

 値引き案を役員会に上げてもらうには、販売現場の協力が必要だ。まずは担当者との良好なコミュニケーションが重要になるのだ。

5 販売担当者を味方につける

 買い手が直接交渉する相手は販売担当者である。たいていは若手だ。 どういうパターンであれ、「この人に買ってほしい」と考えて、値引きの事案を上司に持ち掛けるのは担当者である。ちょっと無理目の値引き案でも「一応上にあげてみます」と、値引き理由を添えた稟議書を書いてくれるのは、担当者であることを忘れてはならない。あるいは、「この人にはもう少し値引き枠をください」と、販売責任者に掛け合ってくれるのも担当者だ。もし担当者が「こんな奴には買ってほしくない」と思ったら、「いや、値引きはできません」の一言で終わるだろう。

 信じられないかもしれないが、新築マンションの業界にはいまだに「客にマンションを売ってやる」という意識がある。そして、「変な客には売りたくない」という暗黙のコンセンサスもある。それには、彼らなりの事情がある。

 購入契約を結ぶと「内覧」という手続きがある。購入者が実際の住戸をみて不具合がないか確認していくわけだが、さまつな欠点を見つけては細かく補修を要求する程度ならまだマシな方で、なかには「モデルルームとここが違う」などと、写真を見せてクレームを付ける輩もいる。新築マンションといえども細かい施工は完璧ではないことも多い。売り主側にミスがあろうものなら、盛大に抗議して値引きを迫る「モンスタークレーマー」もいる。

 販売現場では、そういうややこしいクレームを付けそうな客には「売りたくない」と考えている。だからこそ、自分が将来クレーマーになるようことを感じさせる言動や行動は厳に慎むべきだ。もちろん客だからと言って担当者に威張るタイプがクレーマーに転じやすいことも、担当者たちは経験則で知っている。

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値引きが大きい=お得な物件、ではない