だが「真田丸」の前年には、大きな悲しみも味わった。芸能活動をしたこともある長男が、草刈の事務所のあるマンションから転落して死亡。彼は父親としての自分になかなか自信が持てず「僕はお手本となる父親がいなかったから(子供たちに)どう接していいかわからないんですよね」(「女性自身」より)などと語ったこともある。
ただ、そういう経験が彼の演技にさらなる深みを加えたのだろう。昨年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」には、戦災孤児のヒロインを見守るおじいちゃん役で登場。これは酸いも甘いもかみ分けたベテランの到達点でもあった。
そんな彼の現在は、半世紀にわたって熟成された逸品を思わせる。芸能界の風雪と、何より本人の精進によってもたらされたその熟成が、時代との不思議なシンクロを呼び寄せたのだろう。
●宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など