草刈正雄がデビュー50周年を迎えている。その最初のピークは20代半ばから30歳過ぎにかけてだが、ここ数年の活躍もめざましい。最近ではドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」(TBS系)に出演。これが遺作となった三浦春馬の父親役を演じた。
父親役といえば、彼は6年前、三谷幸喜の舞台「君となら~Nobody Else But You」に出演。娘役は竹内結子とイモトアヤコだった。彼にとって、現在の好調につながる転機となった作品で、竹内とはその後、NHKの大河ドラマ「真田丸」でも共演した。竹内も最近亡くなったことを思うと、複雑な気持ちになる。
また、今年のコロナ禍では、彼が40年前に主演した映画「復活の日」が再注目された。人類とウイルスとの戦いを描いた作品だ。
とまあ、なにか時代とシンクロしてしまったかのような状況だが、筆者にとって彼はちょっと特別な存在でもある。というのも、CMやドラマで知ったのが小学生のときだったことから、彼は今でいう「イケメン」の代名詞というか、記号のような存在なのだ。
そんな草刈は福岡県生まれで、父親は米国人。ただ、朝鮮戦争で戦死したため、母子家庭で育った。彫りの深い顔立ちと長身は父譲りだろうが、芸能界でそこがプラスに働くとは限らない。最近でいえば、スペイン人の母を持つ城田優がデビュー直後、オーディションに落ちまくった話を告白している。「海外から転校してきた役しか思いつかないよ」などと言われたそうだ。
しかし、草刈の場合はすぐによい出会いに恵まれた。広告界の頂点にいた若き大物ディレクター・杉山登志の目に留まり、資生堂のCMに抜擢されたのだ。杉山はこの3年後「自分が、毎日削られてゆくようで、たまらない」という言葉をのこして自殺するが、この抜擢だけを見ても、まぎれもない天才だった。
その後、俳優に転じた草刈は、石井ふく子や市川崑、角川春樹といった実力者に認められ、飛躍していく。82年公開の映画「汚れた英雄」では、主役のオファーをしてきた角川から、
「お前が監督を決めていいよ。誰とやりたい?」(草刈正雄「ありがとう!僕の役者人生を語ろう」より)
とまで言われたほどだ。