ただ、若くしてトップクラスになった美男美女の役者というのは、30代40代が難しい。次世代の美男美女にポジションをおびやかされ、メインを張り続けるにせよ、脇に回るにせよ、いっそうの演技力が必要になってくるからだ。この時期、彼は作品のなかでの扱いが下がったことで「カメラが自分の正面で止まらない」というさびしさを味わうこととなった。やけ酒に走ったりもしたという。
それでも彼は、30代40代、そして50代をしのぎ、60代で再ブレークを果たした。今でももちろんイケメンだが、それ以上に演技派としてのイメージが強いかもしれない。では、いかにして彼はそれを実現させたのか。
そのカギといえるものに、アイドルドラマがある。90年代、彼はテレビ朝日系のアイドルドラマの常連だった。たとえば現在、BS朝日で再放送されている「南くんの恋人」では高橋由美子扮するヒロインの父、「イグアナの娘」では菅野美穂扮するヒロインの父という具合だ。ともにマンガ原作のファンタジックな作品だが、ある意味、少女マンガに出てきそうなイケメンだった彼には自然とハマったのである。
また「南くんの恋人」の前に、BS朝日の同枠で再放送された榎本加奈子主演の「可愛いだけじゃダメかしら?」では喫茶店のマスターを演じた。これもマンガ原作で、コメディー色が強い。彼は川島なお美扮する超オクテの短大講師から慕われながらもいっこうに気づかない鈍感な中年男を飄々とこなしていたものだ。
では、彼がどういう気持ちでこういう仕事に臨んでいたのか。前出の著書にこんな記述がある。
「経済的な苦労はもう絶対したくない。だとしたら、自分が一番稼げるところの、どんなに末端でもいいから食らいついていこう、それが自分で出した結論だったのです」
母子家庭で育った彼は、中学時代には新聞配達をして、高校は定時制に通った。その経験から、天職と感じた芸能の仕事は絶対やめないと決めていたのだ。