問題は、こうした富が「経営手腕」で生み出されたものではないことだ。本来、大きな儲けが出ないはずの保育事業で経営者が好き放題できることには、カラクリがある。保育園の運営のために市区町村から渡される委託費の一部を私的に流用し、私腹を肥やす例が後を絶たないのだ。委託費は保護者が払う保育料に加え、税金が主な原資になっている。


 別のコンサルタントZ氏も、こう話す。

「ある社会福祉法人大手の経営者夫婦の自由になるお金は、役員報酬を含め年間3千万円。個人のクレジットカードで年間数千万円の保育園の備品を購入し、たまったポイントで旅行する。法人名義のクレジットカードで私物を購入するのは常套手段。政治家との付き合いのため、会議費などの名目で委託費から政治資金パーティー券も購入していました。委託費を政治献金に回すのは法令違反です。役所にバレたら返せばいいという感覚です」

 経営者にお金を吸い上げられた保育園で真っ先に削られるのは保育士たちの人件費だ。かつて委託費には「人件費は人件費に」という使途制限があったが、00年、認可保育園の経営に株式会社の参入が認められると、大幅な規制緩和が行われた。「委託費の弾力運用」が認められ、年間収入の4分の1もの額を施設整備など他目的に回すことができるようになった。それが保育への再投資に向くならまだしも、実際は経営者による不正流用が後を絶たない状況だ。

 東京近郊でシェアを伸ばす、ある保育園運営グループの社長の口癖は、「保育士は消耗品」「俺は金儲けのことしか考えてない」。人員体制はギリギリで、有給休暇は取らせない。同社傘下の園を辞めた複数の保育士が「社長は高級外車を乗り回してゴルフばかり。妻は役員で、統括園長が愛人というのは社内で周知の事実」と証言する。同社の保育士の賃金実績は、東京23区内の園でも年350万円程度。都内の平均410万円(19年、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)より相当低く、離職率が約6割になる時期もあった。

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