林:そうですよね。
和田:AIの社会とか高齢化がこれ以上進んで、これまでの常識が変わってきたとき、それに対応できなくちゃいけないんだけど、今のコロナ対策の単純な「予防一筋」のやり方を見ていると、高齢化とかAIの社会にこの国は対応できるんだろうかという不安を感じますね。
林:ただ、最初のころは「家でじっとしていなさい」の一点張りだったのが、最近はちょっとブレーキをゆるめて、アクセルを少し踏み始めたかなという感じもします。
和田:そのときに「命か経済か」の議論をするわけですね。でも、僕ら精神科医からすると「命と命」なんですよ。今の対策のままだと自殺も増えるし、高齢者の数年後の死亡率だっておそらく増えるだろう。それを考えると、コロナで死ぬ人の命を守るのか、メンタルがやられた人とか高齢者の命を守るのかという「命と命」の話になってくる。アクセルも踏んでもらわないとメンタルヘルスが守れないし、高齢者の足腰とか脳の状態も守られないわけですから、「命と命」だと思ってるんです。
林:でも、心って見えないから、「こういうことをすると心が病んできますよ」と言われても、「もっと心を強く持て」「ガンバレ」とか言われがちですよね。
和田:ところが、たとえばうつ病に対応するときに、そういう根性論の人はかえって自殺が多いんですよ。人に泣きごとが言える人とか、適当なところであきらめがつく人のほうが自殺が少ない。「バカと天才は紙一重」とも言いますが、天才と呼ばれるタイプの人は意外にうつ病や統合失調症にはならなくて、どちらかというと真面目な人がなるんです。「心を強く持てばいい」という発想自体、心が弱いんですよ。「しょせん人間の心なんて弱いものだ」という価値観を持たないといけない。
林:先日、朝日新聞に、19歳のシングルマザーがコロナで仕事がなくなっちゃって、「子どもにごはんを食べさせられない。どうしたらいいんでしょうか」とかいう記事が大きく載りましたが、「生活保護をもらえば?」と私なんか思っちゃうんです。
和田:おっしゃるとおりで、弱い人って、国がちゃんとやってくれる制度があることさえ知らないんですよね。19歳だったら消費税を払い続けてるわけで、払った税金の元を取るという発想を持つべきです。うつ病で生活保護を受けるんだって、これまで払ってきた税金を返してもらうだけの話で、お上に厄介になっているとか迷惑をかけるという発想をしてはいけない。返してもらう権利があるものなのに、それが知られていないんですよね。
林:それを教えてあげればいいのに、実態だけを書いて終わりなんて、ほんとにおかしいと思う。
和田:マスコミであれ学校教育であれ、この国が間違ってるのは、ソリューション(解答)を教えないことだと思うんです。いじめによる自殺が起こったときに「いじめをなくしましょう」ってやるでしょう。本来なら「学校って休んでもいいんだよ」とか、「スクールカウンセラーがいます」とか、いじめられたときにどうすればいいかを教えるべきなんです。