林:なるほど。

和田:たとえば、失恋したときに「私にはもう二度と彼氏があらわれない」とか、失業したときに「もう幸せになれない」と思った人はどんどんうつがひどくなるんですが、「この可能性がある。あの可能性もある」と思える人は、うつになりにくいし、なっても改善しやすい。つまり考え方を多様にしなくちゃいけない。これまでの常識に縛られたり、ある一定の専門家と称する人間が言ってることがみんな正しいというのは、あまり賢明な対応ではないような気がしますね。

林:このあいだ先生が「月刊Hanada」という雑誌の対談で「右側の『Hanada』を読むような人は、反対側の意見を持つ『週刊金曜日』を読んだほうがいい。腹が立って前頭葉を活性化させるから」とおっしゃって、笑っちゃいましたよ。

和田:超高齢社会になればなるほど、認知症が増えるずっと前に、前頭葉機能が落ちる人が増えます。前頭葉って、創造性とか思考のスイッチング、想定外のことに対応するとされていて、多様な考え方を受け入れることが、前頭葉の老化防止につながるんだけど、ある方向性の考え方だけが正しいとなると、前頭葉をよけい老化させてしまうんです。

林:なるほど。私も最近、なかなか固有名詞が出てこなかったりするけど……。

和田:本格的なもの忘れは70代80代になってからしか起こらないんですよ。ちょっと人の名前が出てこないとか、そのレベルのもの忘れは想起障害といって、思い出せないだけです。認知症の記憶障害というのは、脳に書き込めなくなっちゃうのね。だから新しいことが覚えられない。人間の脳って、もの忘れとか知能程度の問題が起こる前に、前頭葉が萎縮してくると意欲がなくなったり、感情のコントロールが悪くなって暴走老人になったり、新しいものへの対応とか思考の多様性がなくなってくる。行きつけの店でしかごはんを食べなくなるとか、同じ著者の本しか読まなくなるとか、そういうことが前頭葉の老化の兆候なんですよ。

林:週刊朝日の読者の方は年齢が高いので、大切なお話だと思いますよ。

和田:林先生みたいに、文学賞の選考なんかでいろいろな作品を読んで評価するというのは、まだ前頭葉が若いということなんですよ。日本は世界に冠たる超高齢社会だし、さらに厄介なことに、平均年齢、つまり真ん中の年齢が47歳ぐらいなんです。ということは、上半分の人はみんな前頭葉が萎縮してるということなんです。

林:ちょっと、やめてくださいよ。

和田:頭のカタい人が増えてるのは、高齢化のせいともいえるんですね。

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