「最近、家族との関係を切りたいという人からの依頼がすごく増えています。相談件数はこの1年で5倍になっています」
【前編/親を捨て「家族じまい」する人たち 女優・青木さやかの場合】より続く
こう語るのは、身寄りのないシニアの家族代行をする一般社団法人「LMN」の遠藤英樹代表理事だ。遠藤さんは「孤独死」の現場の片づけにも数々、立ち会ったという。
「親に関わりたくない」「死んでから連絡してほしい」「お骨を拾いたくない」などという依頼者に代わって遠藤さんは介護施設を探したり、死後は葬儀を手配したりする。しかし、遠藤さんの仕事の原点となっているのは、50代の女性からの相談だった。
「姉(60代)が統合失調症になり暴言がひどく面倒が見られない。一切姉とは関わりたくない。何とかしてほしい」
その女性の姉には子どもはおらず夫は病死、身寄りは彼女だけだった。そこで遠藤さんは、週に数回姉の家を訪問することで対応した。ある日、本人から「一人でやってみるわ。しばらくは来なくていい」と言われた。
その1カ月後、ドアノブで首を吊って死んでいる姉を、連絡が取れないのを不審に思って家を訪れた依頼者が発見した。
「しばらくして、女性からお手紙を頂戴しました。そこには『本当は姉の世話をしたかった』とありました。依頼者の本心まで読めなかったことに悔いが残りました」
この経験から遠藤さんは、どんなに確執がある家族でも完全に切ってしまうのではなく、どこかでつながりを残すべきだと考えるようになったという。それゆえに「LMN」が行うサービスに「身元保証」はない。理由は依頼者には必ず、どこかに血のつながった親族がいると考えるからだ。
面倒な作業は全部、遠藤さんが行った上、「身元保証人になった人に最終的にはお金が入るようにしています。つなげてから私たちが『家族をしまう』のです」。
50代の女性の事例。10代で実母を失った後、後妻と折り合いが悪く、父親に対して複雑な思いで育った。当初の相談は「後妻によるお金の使い込み」だった。