一言でいうと、「モノ化」が加速した感じがします。
「どうしたら妻を、夫を思い通りにできるか」というのは、古今東西尽きぬ悩みですが(笑)、これは相手をどうしたらコントロールできるかという話ですから、相手をやりようによってコントロールできる対象=「モノ」と見ているということです。
しばらく前、それを象徴するようなタイトルの本がベストセラーになりました。題して「妻のトリセツ」。このタイトルを見て私は気持ちがぞわぞわしましたが、ギリギリ受け入れられるかどうかの刺激で情緒的反応を惹起させるキャッチ―さこそ広告的には優れたネーミングです。
このタイトルに飛びついた男性も多かったのではないかと思います。一般的な傾向として男性は、無意識に「モノをコントロールする」という発想で外の世界と関わる人が多いので、男性の発想にはピッタリのタイトルです。
20年前だったら「人をそんな家電製品か何かのように……」という拒否感を感じる人が多くて、受け入れられなかったタイトルだと思います。しかし、このタイトルの成功を受けて続編やパクリが出て、何回もこの手の刺激にさらされることによって、人々は感覚が慣れ、結果的に人を家電製品と同一視することに抵抗感を生じなくなるという意識の変化が生じます。
実際、女性でもこの本のタイトルにひかれて読んでみたら、内容自体は納得のいく話が多いので、「これを読んで」と夫に突き付けた方も多いようです。
この20年の人々の精神面での大きな変化の一つは、こうした人をモノのように、ないしは人をモノとして捉える発想が受け入れられてきたことです。つまり、無意識のうちに、人をモノとしてみる傾向が進んだということです。
これを私は「人のモノ化」と捉えています。これがゆっくりと進行しているように感じていたのですが、この1年で急速に進行した感があります。
もっとも、理性というか意識の面では、人をモノとしてみてはいけない、という意識が高まっている領域も多いので、事情は複雑に入り組んでいて、平均的に見たのではわかりにくい現実があります。
モノ化が進むと、一言でいえば即物的になります。「人もモノなのだから役に立ってなんぼで、それも効率が良いほうがいいよね」「役に立たないなら捨てよう」となります。一言で言えば人も「コスパ」重視です。
具体的にどうなるかは、会社のありようを見ると参考になります。会社は情緒がない物的な存在なので、モノ的な状況は少なくとも夫婦の関係性よりも進んでいます。