■「外注的な発想」を持ち込むと夫婦に強い上下関係が

 昔の日本の会社は終身雇用で、清掃員から社長までいろいろな職種の人がいて、いわば家族のような一体感があってというような状況でしたが、いまは契約関係が増え、その会社におけるコアな業務以外は外注に頼ることが増えています。コアな業務を行う従業員は若干優遇されはしますが、そうであっても交換可能なパーツですし、コア業務でない外注はよりいっそう交換可能なモノ扱いをされることになります。

 夫婦というか家庭も、育児、家事など様々なサービスを外注するようになっています。その結果、家庭におけるコア領域って何だろう、というのが突きつけられているとも言えます。さすがにセックスを外注していいという話はほとんど聞かないので、これはほとんどのカップルがコアな領域と感じるのだろうと思います(だからこそセックスレスは夫婦のコアの領域がない不安感をもたらすのかもしれませんが、セックスレスの話は語ると長いので、今回は横に置きます)。

 家事・育児がコアな業務でないということになると、「外注でもいい仕事」ということになり、それをする側の人は業者扱いになります。厄介なことは、外注というのは、発注者との間で、事実上の上下関係が生じますが、外注的な発想を夫婦に持ち込むと、夫婦にも(最初は隠れた、そしていつの間にか否定しがたい強い)上下関係が発生することです。

 こうしたことは昔もありました。先の「誰に食わせてもらってると思っているんだ」発言はその最たるものです。ただ、以前とちょっと様相が違うのは、稼ぐ人が上で、それ以外の家庭の仕事を分担する人は下だと必ずしも決まらなくなったことです。

 かつては、お金を稼ぐ側が主で、そうでない人に家事を外注しているというのは暗黙の前提でしたが、いまは<お金を稼ぐ機能・良い夫の機能を外注>という関係性も見受けられるのです。

 0歳と1歳の年子の育児をしているマキさん(仮名、30代、専業主婦)は言います。

「この人は、同期の中で部長になったのは一番でしたが、外資には年収が何倍の人もいるのに井の中の蛙だということがわかってなくて、ちっちゃな成果を威張ってるのは筋違いだっていうことがわかってないんです。そのくせ妻が毎日これだけ苦労して子どもを育てているのに理解がなく、毎日夜中まで帰ってこなくて、実は仕事できないのか、さもなければ家に帰って家事を分担するのを避けているとしか思えないんです」

「自分が家事を手伝えないなら、お手伝いさんを雇えるぐらいの年収を稼ぐべきだし、それができないならもっと家事を手伝うべきということに気づいてほしいんです」

結婚だって、一つの契約なんです。契約の条件が守られないなら債務不履行ですから、解約だってあるってことをもっと真剣に考えてほしいです」

 ちなみに、契約の条件というのは、マキさんは出産したら専業主婦になって子育てをする、夫の勉さん(仮名、40代、会社員)はその分マキさんに不自由な生活をさせない、マキさんを常に第一に考えるなど――だそうです。

 マキさんは、勉さんを外注業者として扱っています。10歳近くの年齢差もものともせず、そうできるのは、マキさんがうまくマウントを取っているからです。確かに20年前もこういう事例は少なからずありました。

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