総延長800キロを超える奥武鉄道。実際の路線と見まがうが、蒲生暁径さんが脳内で妄想してつくった鉄道だ(写真:蒲生暁径さん提供)
総延長800キロを超える奥武鉄道。実際の路線と見まがうが、蒲生暁径さんが脳内で妄想してつくった鉄道だ(写真:蒲生暁径さん提供)
AERA 2021年1月11日号より(写真:蒲生暁径さん提供)
AERA 2021年1月11日号より(写真:蒲生暁径さん提供)
AERA 2021年1月11日号より(写真:宮崎拓海さん提供)
AERA 2021年1月11日号より(写真:宮崎拓海さん提供)

 線路を引き、駅を作り、時刻表を組み、車両を走らせる。空想の中で鉄道会社を経営して楽しむ「妄想鉄」がブームだ。苦心して既存の鉄道と接続させたり、逆に新しい県を生み出したり。あまりの本気度に思わず息を呑む。AERA 2021年1月11日号で掲載された記事を紹介。

【特急型から快速型まで揃った車両と時刻表 すべて蒲生さんが脳内で妄想】

*  *  *

 総延長802.7キロ、保有車両1742両、従業員5240人。東京から南東北まで1都7県にかけ路線網を持つ日本で最大規模の私鉄がある。その名は奥武(おうぶ)鉄道。

「こんな鉄道、見たことも聞いたこともない」という人がほとんどだろう。それもそのはず、東京都在住の蒲生暁径(がもうぎょうけい)さん(ハンドルネーム、38)が頭の中で創り出した、壮大な「妄想鉄道」だ。

 奥武鉄道は、浦和駅(さいたま市)と白河駅(福島県白河市)の間を走る全長約197キロの「奥武本線」を中心に、野田市駅(千葉県野田市)と奥武日光駅(栃木県日光市)を結び中距離通勤と観光路線の二つの顔を持つ「宇都宮日光線」(全長約124キロ)など大小計11の路線がある。自身のホームページには、蒲生さんの脳内風景とこれまで撮りためた鉄道写真を融合させた写真もアップしている。

「自分にとって妄想鉄は、好きな景色の中を好きな列車が走るという夢の具現化です。本州最後の秘境といわれる福島県奥会津地方の檜枝岐村や尾瀬など奥会津を走る『上岩(じょうがん)線』のようなローカル線もありますが、そんな場所に列車を走らせたのは、豊かな自然を観光資源として前面に出したいという思いから。そこを気動車が走り、地元の高校生が通学に使ったり、地域の人が都市の基幹病院に通ったりする大切な足にもなっています」(蒲生さん)

 と語り出したら止まらない。

■リアリティー徹底追求

 鉄道ファンは「撮り鉄」「乗り鉄」「時刻表鉄」「呑み鉄」など趣味が細分化されているが、いま注目されているのが実在しない線路に実在しない列車を走らせる「妄想鉄」だ。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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