「今回のコロナ専用ベッドの増床は焼け石に水になりかねません。新たな体制で運用を開始した序盤ですべてのベッドが埋まってしまい、その後はまた重症の患者さんを含め、選別して受け入れる状況に戻ってしまうと思います。入院してもすぐに退院できる患者さんも少なくなっているのです」
搬送した患者の受け入れ先がなかなか決まらない事案も増えている。現状、この内科医の病院でも救急患者を断らざるを得ないことがあったと、苦しい胸中を明かす。そのうえで、こう訴える。
「私たち一人ひとりの医療従事者は、与えられた医療資源と自分の体力が続く限りの働きしかできません。現状では、完全にそのキャパシティーを超えています」
現在、24時間救急体制を行う急性期病院が全国に4255カ所ある。このうち、新型コロナを受け入れている割合は、公立病院が約7割、公的病院が約8割だが、民間病院は約2割にとどまる。このため、厚生労働省は感染症法を改正し、医療機関への患者の受け入れ協力を「要請」から「勧告」に強めるという。
民間病院でコロナ患者の受け入れが進まないのは、中小規模の病院が多いことも理由の一つだ。第1波でコロナ専用病床を開設しながら、後に閉鎖せざるを得なくなった都内の民間病院がある。その院長が匿名を条件に取材に応じてくれた。
「通常病床を閉鎖して、一つのエリアを完全にコロナ病床だけにする工事に1カ月かかりました。さらに専従の職員に感染症のトレーニングをするのに1カ月要しました。そうしてコロナ病床が開設できたころには第1波が収束に向かっており、患者さんがあまり来ない状態が続いたのです」
コロナ病床を確保したため一般病床が減り、通常治療を制限。院内感染も発生し、救急診療や新規患者の受け入れが一時停止に追い込まれた。経営は悪化し、コロナ病床をやめて救急病床に戻さざるを得なくなった。
「中堅の民間病院ではコロナと、心筋梗塞や脳卒中などの救急患者の両方を診るのは難しかった。地域医療への貢献という意味では、発熱があるばかりに診てもらえない救急患者を積極的に受け入れていく病院であるべきだとの考えに至りました」