「目を見張る実績がなくても、目的意識が明確であれば推薦で合格しています。大学選びが偏差値ではなく、研究で取り組んだことを大学でも続けたいという考えに変わってきています」

 桐蔭学園中教(神奈川)からはこの6年間で4人の合格者が出た。

 桐蔭学園は俳優の織田裕二さん、ミュージシャンのデーモン閣下ら個性豊かな卒業生がいる一方で、スパルタ教育でも知られてきた。1989年から10年連続して東大合格ランキングでベスト10入り。92年には114人が合格するなど最高3位に躍進した。しかし、2000年を最後にベスト10から外れ、桐蔭学園全体で昨年の合格者は5人。

 橋本雄介教務次長が説明する。

「昔は『より高みを目指せ』とひたすら鼓舞し、問題の解き方を主に教えていましたが、これでは生徒は伸びない。今は人としてのあり方を大切に指導しています。生徒の目線までしゃがみ込み、学びを促すように取り組んでいます」

 この変革の中で出てきたのが模擬国連部だ。部活動の一つで、学生が各国の大使になり、本物の国連会議を模擬する活動を行う。推薦合格者のいずれもが、この部活に所属していた。

 ある土曜日の教室で、こんな一幕があった。

「目的をはき違えるな」

 高校2年の大久保慶隆さんが檄(げき)を飛ばした。この日は、6グループに分かれた部員がそれぞれ決められたテーマを調べ、昨秋から参加した中学3年生が発表したが、檄は高校1、2年生に飛ばされたものだった。大久保さんはこう話す。

「今回の目的は、調べた知識を効率的に共有すること。入って間もない中3ではなく、高1、高2が発表するべきだった。目的を明確にし、最善策を考えるのも大切な練習なんです」

 部員は40人弱。木曜に1時間程度、土曜に4時間ほど活動する。1年生の田端開さんは言う。

「調べものが多く、1日3~5時間ほどかけています。さまざまな立場から考える力や、相手と意見が違う場合どうしたらまとめられるか考える力がついています」

 実績も上げている。17~19年に全日本高校模擬国連大会で最優秀賞を受賞。20年も優秀賞を受賞した。模擬国連の取り組みを今後は授業でも実施する予定だ。橋本教務次長は言う。

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