保健体育の先生は、ご自身もスポーツを頑張ってこられた人がほとんどで、「とにかく頑張れ!」というタイプが多いと思われがちです。でもスポーツはメンタルがとても重要で、むしろ心の不調には敏感だと思いますよ。
改訂で学習指導要領に精神疾患が入るのを機に、先生方が精神疾患に関する正しい知識を身につけることで、これまで以上に、子どもたちの心の不調や悩みに気づいてあげられるのではないでしょうか。
――授業を受ける子どもたちは、精神疾患をすんなり受け入れることができるでしょうか。
高校は、大学受験を目指す進学校があったり、工業高校や農業高校など専門的な技術を身につけるような高校があったり、多様ですよね。でもどこの高校にも不登校になる生徒はいますし、ストレスの内容は違うかもしれませんが「心の病気をかかえる生徒がいる」ということも共通なのだと思います。
また精神疾患に対する偏見や誤解を解消していかなければならないという点も、どんな高校で学んでいようと変わりません。
改訂に先駆けて、いくつかの高校で試験的に精神疾患の授業を行っていますが、どの高校の生徒も関心を持って取り組んでいる印象を受けます。身近な話題として、興味を持ちやすく、知っておきたい内容なのではないでしょうか。
――子どもたちが授業で精神疾患について学び、知識を得ることで、学校現場はどう変わっていくと考えられますか?
子どもの不調におとなが気づくことはたいせつですが、「子どもたちが自分の心の不調、さらに周りの友人の様子の違いにも気づき行動できるようになるのでは」と期待しています。
授業で教えるのは、「精神疾患は特別な病気ではなく誰でもなる可能性があること」「早期発見、早期治療で回復できること」「症状に気づいた時どう行動すればいいか」「病気に対する偏見や差別をなくす」といった内容です。若い世代に多い「うつ病」「統合失調症」「不安症」「摂食障害」の四つの精神疾患を例に、どのような病気なのか、どんな症状が出るのかといった病気の知識を、具体的に学習していきます。
今までなら自分の不調を精神疾患と結びつけることができなかった生徒が、こうした授業を通して精神疾患の知識を得ることによって、特別なこととしてではなく「自分はおかしいのかな」「もしかしたら病気かもしれない」などと考えるようになって先生や保健室に相談に行く――。周りの友人がいつもと様子が違うとき、それに気づいて先生に報告できるようになる、「保健室に行ったほうがいいんじゃない」と促せるようになる――。そんな流れができていけば、おのずと精神疾患の早期発見、早期治療や偏見、差別の軽減につながっていくのではないでしょうか。
(文・熊谷わこ)