2022年度から高校の保健体育の授業で「精神疾患」について教えることになった。学習指導要領の改訂により約40年ぶりに復活することになる。子どもたちが精神疾患の正しい知識を得ることで、思春期の「心の病気」を減らせるのか。東海大学体育学部体育学科の森良一教授に聞いた。
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――22年度から高等学校の学習指導要領の保健体育に「精神疾患の予防と回復」が盛り込まれ、授業で教えるようになります。思春期の精神疾患が増えていることが大きな理由だそうですね。
文部科学省が生徒指導施策推進の参考にするために毎年、小中高を対象に行っている「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」でも、精神疾患が増えている状況が顕著になってきています。2019年の調査で自殺の要因を「精神障害」としているケースは、中学校では8.8%。高校は9.5%でした。中学も高校も自殺の原因の10%近くは、精神疾患の関連が予想されます。
また、不登校の理由として精神疾患という選択肢はないのですが、4割近くの中学生や高校生が無気力や不安を選んでいます。無気力や不安は精神疾患でよく見られる症状ですから、不登校になっている子どもの中には精神疾患を発症しているケースも含まれている可能性があります。高校あたりになると、心が病んでいる子はかなり見受けられるのではないでしょうか。
また、精神疾患にかかる人が若い世代だけでなく全体的に非常に増えてきていることも、理由の一つです。今回の改訂では、精神疾患のほかにがん教育も加わりますが、どちらも今はかかっていなくても、将来発症する可能性は十分ある。さらに日本中にこうした病気の人はたくさんいるわけで、社会に出たときにこれらの知識を持っていなければ、国民全体が健康上不利益を被ることにもなりかねません。
――現場の先生方の精神疾患に対する意識はどうですか?
私の感覚ですが、保健体育の先生に限らず先生方は精神疾患に関心を持つようになってきていると感じています。最近は精神疾患にかかる人が増えて、家族や友人など身近に患者がいるような状況で、精神疾患が特別なものではなくなってきていますよね。学校の教職員も精神疾患にかかる人が増加しているので、同僚が精神疾患というケースも少なくありません。「精神疾患について正しく知りたい」という先生も増えているように思います。