この戦いによって、憂太は「自分が人を殺す」ことを受け入れてしまった。特にためらいもなく、冷静なままで。
0巻のラストシーンでは、憂太の「左手の薬指」には、里香の指輪がはめられたままになっていた。「指輪」は憂太と里香をつなぐ唯一の証だったはずだ。しかし、憂太の再登場後、ジャンプ本誌・第141話までは「指輪」の描写はない。
本当に里香との恋は「純愛」だったのか。人間を殺すことをためらわず、戦闘を重ねる彼を、今も里香は愛し続けているのだろうか。もしかしたら、彼のかたわらにいるのは、今はもう別の「リカ」なのかもしれない。謎多き乙骨憂太が今後の展開にどう影響してくるのか、興味が尽きない。
◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。